・・・幼弱者虐待防止案といい、欠食児童救済事業といい、このあらわれに他ありません。これとて多数者でなかったら、恐らく見殺しにされて問題とはならなかったでしょう。これは、比較的外面の事実であるが、なほ、焦眉の応策を要するものに、思想問題がありました・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・たとえば雑音を防止するために従来のステュジオが役に立たなくなるとか、実際の雑音はまるで別物に変わるから適当な擬音を捜すとか、動き回る役者の声をどうして録音するかというようないろいろの問題が、単なる技術上だけの問題でなくて、映すべき素材の上に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ういう皮膜は多くの場合に一分子だけの厚さをもつものであるから、割れ目の間隙が 10-8 でなくてもミクロン程度のものならば、その間隙を液体で充填することによって割れ目の面における音波の反射をかなりまで防止し従って鐘の正常な定常振動を回復する・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・ある遠い国の炭鉱では鉱山主が爆発防止の設備を怠って充分にしていない。監督官が検査に来ると現に掘っている坑道はふさいで廃坑だということにして見せないで、検査に及第する坑だけ見せる。それで検閲はパスするが時々爆発が起こるというのである。真偽は知・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・靴底と地面との衝撃の結果として靴底が磨滅されるおかげで、不愉快な振動が肉体に伝わることを防止するのであろう。 畳がすり切れて困るから、床を鋼鉄張りにするというのも同じような話である。 こんな不平をいだいて、二三日歩き回っているうちに・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ただきわめて少数な学者たちが熱心に地震の現象とその生因ならびにこれによる災害防止の研究に従事している。そうして実に僅少な研究費を与えられて、それで驚くべき能率を上げているようである。おそらくは戦闘艦の巨砲の一発の価、陸軍兵員の一日分のたくあ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかれども実際は科学者が科学の領域を踏み外す危険を防止するためには、時にこれらの反省的考察が却って必要なるべし。特に予報の問題のごとき場合においては然りと信ず。余が不敏を顧みずここに二、三の問題を提起して批判を仰ぐ所因もまたこれに外ならず。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・言わば高圧釜の安全弁のように適当な瞬間に涙腺の分泌物を噴出して何かの危険を防止するのではないか、そうでないとどうも涙の科学的意義がのみ込めない。 ある通俗な書物によると、甲状腺の活動が旺盛な時期には性的刺激に対する感度が高まると同時にあ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そのおかげで、それまではこの世における颱風の存在などは忘れていたらしく見える政治界経済界の有力な方々が急に颱風並びにそれに聯関した現象による災害の防止法を科学的に研究しなければならないということを主唱するようになり、結局実際にそういう研究機・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・あれをつるしてある鋼条が切れる心配はないかというような質問が子供のうちから出たので、私はそのような事のあった実例を話し、それからそういう危険を防止するために鋼条の弱点の有無を電磁作用で不断に検査する器械の発明されている事も話しなどした。それ・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
出典:青空文庫