・・・文学的な独自性をもつ創作が発表されなかったとともに、文学理論の発展も阻害されつづけてきた。ちゃんとした小説も文芸評論もなかった。その中を、不具にされた日本の文学とその不具な文学をさえなお愛する人間らしい精神の人々が手さぐり足さぐりで、去年の・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・科学に対する統制は科学の発展を阻害して目前の功利主義へひきとめる形としてあらわれて来ている。多くの科学者が、科学の立場からその強力な摩擦に苦しみ、そのような統制に反対の意志を示しているのは当然である。このような統制は本質的には、一般的に人間・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 成年の女に月経は自然の現象ではあるけれども、現代の労働の或る種のものは、その自然現象に阻害を与えるような悪事情で女を働らかせている。その面に私たちの関心は向けられる。自然のことなのであるから、それが自然に処理され、自然に経験されてゆく・・・ 宮本百合子 「職業婦人に生理休暇を!」
・・・そして、反抗や焦燥や、すべてほんとの心の足並みを阻害する瘴気の燃き浄められた平静と謙譲とのうちに、とり遺された大切な問題が、考えられ始めたのである。「自分は、彼等を愛した。それは確かである」けれども、その愛が不純であり、無智であ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・文学の真の発展が阻害されている一時期に生じる作家と読者との黙契的諒解の上に依存して、作者の不分明な思惟や紛糾した表現を、それが不分明であり不鮮明であるため却って読者の方が暇にあかせ根気よく、各自の気分で読んで、むこうから解説し内容づけてくれ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・某氏の理性の判断は、ゴジが民主を阻害することを知りぬいている。それだのに何故、その判断と反する政党に隷属して、一応にしろ言論の自由のある今日、心ならずも、と汗を拭きつつその党のゴジ論をやるのだろうか。答えは明瞭である。目先の分別では、今日彼・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・はいつもいつもある特定の一国によって阻害されているようにニュース解説は型をきめた。日本にとって戦争は不可避的なもののようにあらわされていて、人々の眼はもうそわそわと、「朝鮮景気」「物価騰貴」「どの株を買えば安全か」「買いだめ、疎開は必要か」・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・予にしてもし彼の偽の幸福のために、別方面の種々の事業の阻礙をさえ忘るるものであったなら、予は我分身と与に情死したであろう。そうして今の読者に語るものは幽霊であろう。幽霊は怨めしいと云って出るものには極まって居る。もし東京に残って居る鴎外の昔・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・松井田より汽車に乗りて高崎に抵り、ここにて乗りかえて新町につき、人力車を雇いて本庄にゆけば、上野までの汽車みち、阻礙なしといえり。汽車は日に晒したるに人を載することありて、そのおりの暑さ堪えがたし、西国にてはさぞ甚しからん。このたびの如き変・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫