・・・落下傘で降下して、草原にすとんと着く、しいんとしている。自分ひとり。さすがの勇士たちもこの時は淋しいそうだ。新聞の座談会で勇士のひとりがそう言っていた。そのような謂わば古井戸の底の孤独感を私もその夜、五合の酒を飲みながらしみじみ味った事であ・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・先日、にわかに敵機が降下して来て、すぐ近くに爆弾を落し、防空壕に飛び込むひまも無く、家族は二組にわかれて押入れにもぐり込みましたが、ガチャンと、もののこわれる音がして、上の女の子が、やあ、ガラスがこわれたと、恐怖も何も感じない様子で、無心に・・・ 太宰治 「春」
・・・そうして普通の上空気温低下率から計算しても約摂氏五度ほどの気温降下を経験する。それで乗客の感覚の上では、恰度かなりな不連続線の通過に遭遇したと同等な効果になるわけである。しかし、乗客はみな、そんな面倒なことなどは考えないで「ああ涼しい」とい・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・もし旋風のためとすればそれは馬が急激な気圧降下のために窒息でもするか内臓の障害でも起こすのであろうかと推測される。しかしそれだけであってこのギバの他の属性に関する記述とはなんら著しい照応を見ない。もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・そこでこの容器の底に穴をあけて水を流出させれば水面の降下につれて栓と棒とが降下するのであるが、その穴の大きさをうまく調節すると二つの土器の二つの棒が全く同じ速度で降下しいつでも同じ通信文が同時に容器の口のところに来ているようになるのである。・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・たぶん温度が急激に降下するときに随伴する感覚であって、しかもそれはすぐに飽和される性質のものであるから、この感覚を継続させるためには結局週期的の変化が必要になると考えられる。 子供の時分、暑い盛りに背中へ沢山の灸をすえられた経験があるが・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・近頃の研究によると火山の微塵は、明らかに広区域にわたる太陽の光熱の供給を減じ、気温の降下を惹き起すという事である。これに聯関して饑饉と噴火の関係を考えた学者さえある。 蒼空の光も何物か空中にあって、太陽の光を散らすもののあるためと考えな・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・を除けば、あとは皆地上数百ないし数千メートルの高所から降下するものである。その中でも雨と雪は最も普通なものであるが、雹や霰もさほど珍しくはない。霙は雨と雪の混じたもので、これも有りふれた現象である。 以上挙げたものの外に稀有な降水の種類・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
出典:青空文庫