・・・ ギャラップの世論調査所に働いているのが女子だったから、アンケートの送りさきが限定されたのではなかった。彼女たちが、資本主義の社会のなかで働いて生きる婦人として、はっきり自分たちの存在の意義や生活の本質を理解していなかったからにほかなら・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
最近豪華版とか、限定版とか称する書籍を見る。少い部数で、一々本の番号を付し、非常に立派な装幀で、一見洵に豪華なものである。限られた少数の富裕な見手を目当てにしたものだろう。私達から見れば此上なく意味のないもので、読んで見て・・・ 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
・・・大人の文学と云う場合、一般の通念を、官吏、軍人、実業家とのみ限定することは困難である。人は、貧しき大人、苦しき大人、得意ならざる大人の現実の存在を念頭に泛べざるを得ない。古来文学は、まことに心かなしきものの友であったのであるから。―― ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・文部省は、女子の社会的存在意味を男のための内助者としての範囲に止めて、教育制度も限定した。それらの保守的な人々は考えた。家庭を円満に治めるためにも、男子の手足まといになりすぎる程物の道理が判らなくても困るが、余りはっきりしすぎて男が煙たいほ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・このため官能表徴と感覚表徴との明確な範疇綱目を限定することは最も困難なことではあるが、しかし、少くとも清少納言の感覚は、あれは感覚ではなく官能が静冷で鮮烈であったのだ。静冷であるが故に鮮烈な官能は一見感覚と間違われることが屡々ある。感覚的な・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・の語義を限定しておく必要を感ずる。ここに用いる「自然」は「人生」と対立せしめた意味の、あるいは「精神」「文化」などに対立せしめた意味の、哲学的用語ではない。むしろ「生」と同義にさえ解せられる所の、人生自然全体を包括した、我々の「対象の世界」・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫