・・・従って、それぞれの作品のもっている歴史的な、また階級的な限界というものも、はっきり知ろうと努力されている。 戦争中の日本政府のとりしまりは法外に苛酷非条理であったから、ツルゲネフやマクシム・ゴーリキイについて書かれた文章は、これまで、ど・・・ 宮本百合子 「あとがき(『作家と作品』)」
・・・ 生きる歓喜にむせぶような心もちの少女が、死の迫って来る力、生命の消されてゆく過程に、息をのんで凝視したこともわかるが、しかし、人間関係が二次的に扱われたことに、意味ふかい限界が示されている。十九の少女は、自分の日々がその中で営まれてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・なぜならば、人類の歴史は常に個人の限界をこえて前進するものである。文学の創造というものが真実人類的な美しい能動の作業であるならば文学に献身するというその人の本性によって、人類、社会が合理的に発展前進しようとする活動に共働しないではいられない・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・そして、その限界をのりこえてより社会的に発展するか、またはより主観的なものに細分され奇形で無力なものになってゆくかの岐路に立った。この極めて興味のある文学上の課題はすべての人々がみているとおり今日またちがった歴史の段階に立って、解決され切ら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・の批判も見なかったし、作者のもっていた積極性の本質やその限界についての分析も与えられなかった。そのころのプロレタリア文学運動のおかれていた未熟でやや機械的だった文学の階級的基盤の解釈なりに、プロレタリア文学もやっぱり「伸子」を文学のらち内で・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・それが日本の人民の発展に限界を与えようとするものであることは、特別資格審査委員会一つを見ても、悲しいほどその目的があらわである。はじめ、日本の民主化のために発足したいろいろの「委員会」は、四年の間にあわれやへたぐされとなってきている。 ・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・学しておられた時分、友人であった一人のロシア生れの女性が、非常によく両性の友人としての交際に訓練されていて、そのために氏は多くのことを学び、男と女との間に友情がまっとうされるためには守るべきいろいろの限界が在ることと、そして、それを守る節度・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・兼ねて生涯の事業にしようと企てた本国の歴史を書くことは、どうも神話と歴史との限界をはっきりさせずには手が著けられない。寧ろ先ず神話の結成を学問上に綺麗に洗い上げて、それに伴う信仰を、教義史体にはっきり書き、その信仰を司祭的に取り扱った機関を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・人の欲には限りがないから、銭を持ってみると、いくらあればよいという限界は見いだされないのである。二百文を財産として喜んだのがおもしろい。今一つは死にかかっていて死なれずに苦しんでいる人を、死なせてやるという事である。人を死なせてやれば、すな・・・ 森鴎外 「高瀬舟縁起」
・・・青年は危険の限界を知らぬものだ。栖方も梶の知らぬところで、その限界を踏みぬいている様子があったが、注意するには早や遅すぎる疑いも梶には起った。「倒れたのが発想か。倒れなかったら、何にもないわけだな。」 これもすべてが零からだと梶は思・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫