・・・ もと近所に住んでいた古着屋の息子の新ちゃんで、朝鮮の聯隊に入営していたが、昨日除隊になって帰ってきたところだという。何はともあれと、上るなり、「嫁はんになったそうやな。なぜわいに黙って嫁入りしたんや」 と、新ちゃんは詰問した。・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そこで病気にかゝって、大正十一年四月内地へ帰り、七月除隊になった。十四年までは、病気がよくならんのでブラ/\して暮してしまった。十五年十一月、文芸戦線同人となった。それ以来、文戦の一員として今日に到っている。短篇集に、「豚群」と「橇」がある・・・ 黒島伝治 「自伝」
・・・ そこにいる者は、もはや、除隊後のことを考えていた。彼等の胸にあるものは、内地の生活ばかりであった。いつか、持って来た慰問袋を開けていると、看護長がぶら/\病室へ這入ってきたことがある。慰問袋には一ツ/\何か異ったものが入れてあった。寒・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・然しこの書は明治十年西南戦争の平定した後凱旋の兵士が除隊の命を待つ間一時谷中辺の寺院に宿泊していた事を記述し、それより根津駒込あたりの街の状況を説くこと頗精細である。是亦明治風俗史の一資料たることを失わない。殊に根津遊廓のことに関しては当時・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ 島田の方では、達治さんの除隊が一番たのしみでいらっしゃいます。 これは、私達二人の楽しみで、まだ島田へは申さないのですが達治さんがお嫁を貰うとあのお家では狭いの。お風呂場のところをね、改造してお父上のゆっくり寝ていらっしゃる小部屋・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・入営まで職についていれば除隊後新たに就職するまで失業手当を支給される。親が例えば選挙権をもたないでも息子が赤衛兵ならば集団農場に加入を許される。 手風琴を鳴らして赤衛兵が腰かけている窓の下の掘割を、ボートが一艘漕いで来た。ボートの中には・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・特に合理的なのは、除隊兵が若し入営まで労働者だったとすると、除隊後職業を見つけるまで生活保証を受ける。また労働者のためには特に「休息の家」があって、ソヴェトの生産別職業組合は「休息の家」へ二週間から一ヵ月、労働者を送って休養させる。 そ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・何でもない、只町に新らしい芝居のかかった事とこの暮に除隊になる、自分の家の前の息子の噂をしに来たのである。 祖母はこの婆さんを好いては居ない。げびた話ばかりして何かもらうか食べるかしなければ帰る事のない人だからである。 貧しいと云っ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫