・・・朝応用美術品陳列館へ行った。それから水族館へ行って両棲動物を見た。ラインゴルドで午食をして、ヨスチイで珈琲を飲んで、なんにするという思案もなく、赤い薔薇のブケエを買って、その外にも鹿の角を二組、コブレンツの名所絵のある画葉書を百枚買った。そ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・骨董品というほどでなくても、三越等の陳列棚で見る新出来の品などから比較して考えてみても、六円というのはおそらく多くの蒐集者にとっては安いかもしれない。しかし私はなんだか自分などの手に触るべからざる贅沢なものに触れたような気がしたので、急いで・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・そうして最後に残った絵だけをもう一遍陳列してみたらどんなことになるか。これは試しに一度やってみる価値があるかもしれない。 二 ヨーヨーとコリントゲーム ヨーヨーがすたれて、コリントゲームがいまだに残存している。・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・産業博物館とでもいうものがあれば、そういう所に参考品として陳列されるべきものかもしれない。 祖母の使っていた糸車はその当時でもすっかり深く媒色に染まったいかにも古めかしいものであった。おそらく祖母の嫁入り道具の一つであったかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・それらの多くは科学の世界の表層に浮かぶ美しいシャボン玉を連ねた美しい詩であり、素人の好奇心を刺激するような文明の利器を陳列したおもしろい見世物ではあるが、科学の本質に対する世人の理解を深め、科学と人生との交渉の真に新しい可能性を暗示するよう・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そのほかになかなか美しい人形や小箱なども陳列してあったが、いちばん自分の注意をひいたのは児童教育のために編纂された各種の安直な絵本であった。残念ながらわが国の書店やデパート書籍部に並んでいるあの職人仕立ての児童用絵本などとは到底比較にも何も・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・今ではたいていの田園の産物もデパートの陳列棚で見られるのであるが、それでもまだ楊梅や寒竹の筍は見られない。菱や色々の樹の実は土佐に限らぬものであろうが、しかしこれらの都会の食味の中に数えられないためか、どこでも手に入れることが出来ない。そう・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・千円の晴れ着を横目ににらんで二十銭のくけひもを買えば、それでその高価な帯を買ったような不思議な幻覚を生ずる事も可能である。陳列されてある商品全部が自分のもので、宅へ置ききれないからここへ倉敷料なしのただで預けてあると思えば、金持ち気分になり・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころには、西河岸の地蔵尊、虎ノ門の金毘羅などの縁日にも、アセチリンの悪臭鼻を突く燈火の下に陳列されるようになっていた。 わたく・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・一国の首都がその権勢と富貴とに自から蒐集する凡ての物は、皆ここに陳列せられてある。われわれは新しい流行の帽子を買うためにも、遠い国から来た葡萄酒を買うためにも、無論この銀座へ来ねばならぬが、それと同時に、有楽座などで聞く事を好まない「昔」の・・・ 永井荷風 「銀座」
出典:青空文庫