・・・あらず、あらず、時は必ず来たるべし―― 大空隈なく晴れ都の空は煤煙たなびき、沖には真帆片帆白く、房総の陸地鮮やかに見ゆ、射す日影、そよぐ潮風、げに春ゆきて夏来たりぬ、楽しかるべき夏来たりぬ、ただわれらの春の永久に逝きしをいかにせん――・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ 船は、それから、どん/\どん/\どこまでも走って、しまいに世界のはての陸地へつきました。 ウイリイは船から上ると、百だいの車へ、百樽の肉とパンとをつませて、二百本の革綱をつけてそれを二百人の水夫に、二人ずつで引かせて進んでいきまし・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ 山の南側は、太古の大地変の痕跡を示して、山骨を露出し、急峻な姿をしているのであるが、大垣から見れば、それほど突兀たる姿をしていないだろうという事は、たとえば陸地測量部の五万分一の地形図を見ても、判断する事ができる。大垣停車場から、伊吹・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
昼間陸地の表面に近い気層が日照のためにあたためられて膨張すると、地上一定の高さにおいては、従来のその高さ以下にあった空気がその水準の上側にはみ出して来るから、従ってそこの気圧が高くなる。すなわち同じ高さの海上の気層に比べて・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・とかまた「水ぎわまでの間にて敵を仕留めよ。陸地にてはいつも敵になげられよ。大地にわが体の落ち着くまでに敵を仕留むるの覚悟をせよ」とかいう文句がある。空中殺人法を説いたものである。現代では競技会でメダルやカップやレコードを仕留めるだけが目的の・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ この火山の機巧の秘密を探ろうと努力している多くの熱心な元気な若い学者たちにきわめて貴重なデータを供給するために、陸地測量部の人たちが頻繁な爆発の危険に身命をさらしながら爆発の合い間をねらっては水準測量をしている。その並み並みならぬ労苦・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
九月二十九日。二時半上野発。九時四十三分仙台着。一泊。翌朝七時八分青森行に乗る。 仙台以北は始めての旅だから、例により陸地測量部二十万分の一の地図を拡げて車窓から沿路の山水の詳細な見学をする。北上川沿岸の平野には稲が一・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 出雲風土記には、神様が陸地の一片を綱でもそろもそろと引き寄せる話がある。ウェーゲナーの大陸移動説では大陸と大陸、また大陸と島嶼との距離は恒同でなく長い年月の間にはかなり変化するものと考えられる。それで、この国曳きの神話でも、単に無稽な・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・これらはこの地方が北と南に山と陸地を控えているために起る事で、気象学者の研究問題になります。しかし、ここには私はただ少しばかり瀬戸内海の中の水の運動の事について御話ししましょう。 一体、海の面はどこでも一昼夜に二度ずつ上がり下がりをする・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・右舷に遠くねずみ色に低い陸地が見える。 日本から根気よく船について来た鴎の数がだんだんに減ってけさはわずかに二三羽ぐらいになっていたが、いつのまにかまた数がふえている。これはたぶんシナの鴎だろう。四月二日 呉淞で碇泊している。両・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫