・・・数の上では文運隆盛の趣を示しているかのようである。 一体、日本の現代文学の分野で、これだけあまたの賞というものはいつ頃、どのような社会の事情、文学の機運によって生れて来たものであろうか。文学に関する賞についてだけ考えて見ると、これらの賞・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 文芸懇話会が、文学の隆盛のための組織としてはそれ自身矛盾を包んでいることは既に明らかにされたのであったが、一九三七年という年は、更に建国祭を期して文化勲章が制定せられ、帝国芸術院というものが設立され、文芸懇話会は創立四年目に発展的解消・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・万葉集の中にうたわれている大らかな明るい、生命の躍動している自然的な自然の描写が、藤原氏隆盛時代の耽美的描写にうつり、足利時代に到って、仏教の浸潤につれ、戦乱つづきの世相不安につれ、次第に自然は厭世的遁世の対象と化した。あわれはかなき人の世・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・生産文学と呼ばれる作品が、何故今日、その隆盛のために却って一般の心に、文学とは何であろうかという本質的な反問を呼び醒ましつつあるのであろうか。「麦と兵隊」に、死んだ支那兵のポケットにまだ動いている時計を見つけた主人公が、それをそのまま元・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・ ワグナーは晩年には、音楽は民衆をたやすく統治するための有効な手段だと皇帝に書いて、オペラの隆盛を援助させた。愚民政策としてすすめている。しかも一九三〇年には生みの親のブルジョア社会の感覚が古典的オペラへの興味からくずれ出してレヴューだ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 文学の隆盛は階級の隆盛と密接に結びついています。一定の階級が勃興期にある時はその階級の文学も隆興し、その階級が没落期にある時はその階級に属する文学も亦衰滅乃至堕落の道を辿ります。今日のブルジョア文学が段々貧弱になって行くのもそれで、谷・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・女流文学の隆盛期と云われた王朝時代、一般の婦人の社会的な地位は、不安で低いものでした。その中から、こういう小説を書いた。そして紫式部が書いた小説にはなかなか立派な描写があるし、同時に彼女の生きた時代の女のはかない生き方、大変に風流のように、・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・文学は一見隆盛であって、しかもその実質は低められもしあるいは亀裂が入り、あるいは一新の前の薄闇におかれている。よかれあしかれ、男の作家のもつ社会性のひろさ、敏感さ、積極性がそういう文学上の混乱を示しているのであるが、婦人作家たちの多くは、そ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・詩が唐の代に最も隆盛であったことは言を待たない。隴西の李白、襄陽の杜甫が出て、天下の能事を尽した後に太原の白居易が踵いで起って、古今の人情を曲尽し、長恨歌や琵琶行は戸ごとに誦んぜられた。白居易の亡くなった宣宗の大中元年に、玄機はまだ五歳の女・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・それに引き換え、勘次の父は村会を圧する程隆盛になって来た。そこで勘次の父は秋三の家が没落して他人手に渡ろうとした時、復讐と恩酬とを籠めたあらゆる意味において、「今だ!」と思った。そして、妻が反対したのに拘らず、彼は妻の実家を立て直して翌年死・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫