・・・御随意である。とにかく今日だけはそう仮定したいものだと思います。それでないと話が進行しません。なぜこんな余計な仮定をして平気でいるかというと、そこが人間の下司な了簡で、我々はただ生きたい生きたいとのみ考えている。生きさえすれば、どんな嘘でも・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・「球突随意ピヤノあり gay society, late dinner」これも珍らしくない。「レートジンナー」と云うのはこの頃の流行なのだ。我輩などには至極不便だ。その中で下のようなのを見出した。「立派なる室を有する寡婦及その妹と共に同宿せ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・それがこっちから訪ねる場合は、何時でも随意に別れることが出来るのである。この「告別の権利」が、自分になくって来客の手にあるということほど、客に対して僕を腹立たしくすることはない。 一体に交際家の人間というものは、しゃべることそれ自身に興・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・家の娘と結婚、養父母は先ず是れにて安心と思いの外、この養子が羽翼既に成りて社会に頭角を顕すと同時に、漸く養家の窮窟なるを厭うて離縁復籍を申出し、甚だしきは既婚の妻をも振棄てゝ実家に帰るか、又は独立して随意に第二の妻を娶り、意気揚々顔色酒蛙々・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・世界古今の歴史を見ても、その事実を証すべきなれば、政治も学問も、その専業に非ざるより以外は、ただ大体の心得にしてやみ、尋常一様の教育を得たる上は、おのおのその長ずるところにしたがい、広き人間世界にいて随意に業を営み、もって一身一家のためにし・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・一、私塾中は起居自由にして一物の身を束縛するなく、官途の心雲を脱却して随意に書を読み、一刻も読書に費さざるの時なく、一語も文学にわたらざるの談なし。身心流暢して苦学もまた楽しく、したがって教えしたがって学び、学業の上達すること、世人の望・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・また道徳の課にいたりては、特別に何主義を限らず、ただ教師朋友相互の責善談話をもって根本となし、その読むところの書は人々の随意に任じ、嘉言善行の実をしておのずから塾窓の中に盛ならしむるを勉むるのみ。 かくの如くして多年の成跡を見るに、幾百・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ また日本にては、貧家の子が菓子屋に奉公したる初には、甘をなめて自から禁ずるを知らず、ただこれを随意に任してその飽くを待つの外に術なしという。また東京にて花柳に戯れ遊冶にふけり、放蕩無頼の極に達する者は、古来東京に生れたる者に少なくして・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・此頃は、或点までは彼が随意的の死にを□(たのであろうと云う断定に近づいて居る。 私は彼が聞けば笑いそうな想像、あてずっぽうを云って居るかもしれない。 けれ共彼にとってはもう皆な済んでしまった事なのである。 よろこびも悲しみもなく・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ただ家から果物やジャムなんかを持って来ることは随意というわけで、入院産婦への見舞受付口には亭主らしい数人の男と七八人の籠を腕にかけた女連が立っている。 炊事場の取締りをやっている肥った小母さんが自分を見て、「どうです? われわれの産・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
出典:青空文庫