・・・査閲の時点呼執行官は私の顔をジロリと見ただけで通り過ぎたが、随行員の中のどうやら中尉らしい副官は私の鼻を問題にした。 傍にいた分会長はこ奴は遅刻したので撲ってやりましたと言った。私はいや遅刻したのではない、点呼令状の指定する時間前に到着・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ 技術官に随行する測夫というのがまた隠れた文化の貢献者である。ただ一人山頂の櫓に回照器を守って、時々刻々に移動する太陽の光束を反射して数十キロメートルかなたの観測点に送る。それには多年の修練によるデリケートな神経と筋肉の作用を要する。こ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・それから一つの特徴としては、王の軍中に随行して、時々の戦の模様や王の事蹟を即興的に歌った詩人の歌がところどころにはさまれている事である。それがために物語はいっそう古雅な詩的な興趣を帯びている。 日本に武士道があるように、北欧の乱世にはや・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・すると我輩の随行しているレデーが突然あなたはメリー・コレリのマスタークリスチアンを御読みなさいましたかと大きな声で聞た。これは近頃十五万部売れたというちょっと有名な本だ。我輩は書物は持っているがまだ読まないと答えた。「あの本はね、大変善くで・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・弟はまたそれが不愉快でたまらないのだけれども、兄が高圧的に釣竿を担がしたり、魚籃を提げさせたりして、釣堀へ随行を命ずるものだから、まあ目を瞑ってくっついて行って、気味の悪い鮒などを釣っていやいや帰ってくるのです。それがために兄の計画通り弟の・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・三千年前の項羽を以て今日の榎本氏を責るはほとんど無稽なるに似たれども、万古不変は人生の心情にして、氏が維新の朝に青雲の志を遂げて富貴得々たりといえども、時に顧みて箱館の旧を思い、当時随行部下の諸士が戦没し負傷したる惨状より、爾来家に残りし父・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫