・・・曰くサ、「最も障碍の少き運動の道は必らず螺旋的なり」というので沢山サ。一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線に極ッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。直線に進まないのではないが、螺旋をして行く場合には・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・これで交通の障碍がやっと除かれたのである。おれはこの出来事のために余程興奮して来たので、議会に行くことはよしにした。ぶらぶら散歩して、三十分もたってから、ちょうど歩いていたスプレエ川の岸から、例の包を川へ投げた。あたりを見廻しても人っ子一人・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 池の面の波紋でも実験されるように、波の長さが障碍物の大きさに対して割合に小さいほど、横に散らされる波のエネルギーの割合が増す。従って白色光を組成する各種の波のうちでも青や紫の波が赤や黄の波よりも多く散らされる。それで塵の層を通過して来・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・今の人間には崇高や壮大と名づけられる種類の美は何らかの障礙のために拒まれているのだろうか。 日本画部から受けた灰色の合成的印象をもって洋画部へはいって行くと、冬枯れの野から温室の熱帯樹林へはいって行くような気持がするのは私ばかりでは・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・には、ある意味での批評をしなければならない事は勿論であるが、しかし、意識的に批評のための批評をしようという心持があっては、芸術品を楽しみ味わう邪魔になるばかりでなく、却って本当の正しい批評をすることの障碍になりはしまいか。この点はプロフェッ・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・そのときあちこちの氷山に、大循環到着者はこの附近に於て数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍は来路に倍するを以て充分の覚悟を要す。海洋は摩擦少きも却って速度は大ならず。最も愚鈍なるもの最も賢きものなり、という白い杭が立っている。これよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・「みんなで障碍物競争をやろうと思ったんです。」「あのわなをかけることを、学校では禁じているのだが、お前はそれを忘れていたのか。」「覚えていました。」「そんならどうしてそんなことをしたのだ。こう云う工合にお客さまが度々おいでに・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・日本の民主化という窓は明日に向って明るく開かれているけれども、その国を横切りつつある私達の足もとには長い歴史が今日に齎している雑多な矛盾と障碍とがある。 青年の生活を思う時、私達の心には一口には言い現わせないいとおしみと希望とがある。こ・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 僅か十四五の時、両親には前後して死去され、漸々結婚が未来の希望を輝せ始めると、思いもかけず長年の婚約者との間に、家族的な障碍が横えられました。 両親の死後、彼女の新たな保護者となった長兄は生憎、許婚者の父とは政敵の関係にあって、そ・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・どういう可能性があり、どういう障碍物があり、どんな方法でそれを打ち破ることが出来るかを研究しあう会だと思う。一つのきまりきった型をして、みなさんこれにならえという風な役所的な会議である筈がない。役所風のいわゆる文化政策に対して、私たちは生き・・・ 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
出典:青空文庫