・・・ 鳥さしは維新以前には雀を捕えて、幕府の飼養する鷹の脚を暖めさせるために、之を鷹匠の許へ持ち行くことを家の業となしていたのであるが、いつからともなく民間の風聞を探索して歩く「隠密」であるとの噂が専らとなったので、江戸の町人は鳥さしの姿を・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・春三月 発芽を待つ草木と二十五歳、運命の隠密な歩調を知ろうとする私とは双手を開き空を仰いで意味ある天の養液を四肢 心身に 普く浴びようとするのだ。 二月十六日 ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ミーダ 思いがけない機会で、隠密な日頃からの俺の唆かしの結果が見られて嬉しかった。人間共も、まだ当分は材料になるな。ヴィンダー 偶然を徒らな偶然で終らせないのが俺達の腕だ。大方今頃は、途方にくれた鈍い面を、深刻らしく歪めて、焼後の灰・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫