・・・文士が雅号を用いることを好まなくなったのもまた明治大正の交から始った事である。偶然の現象であるのかも知れないが、考え方によっては全然関係がないとも言われまい。 戦争中にも銀座千疋屋の店頭には時節に従って花のある盆栽が並べられた。また年末・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・詩人は柔い雅号で出版の手つづきをすませて又二匹の馬は村に向いました。詩人の母や祖母はふるえる様によろこんでこの美くしくて幸多い人の行末をどうぞまっすぐに行く様にと夕のおいのりはいつもより倍も倍も久く時をかけました。その翌日もその翌日も楽しく・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 私が何かものずきに雅号をつける。 それが雑誌かなんかで同じ名が見えると、自分の領分に足をふんごまれたような馬鹿にされたような気持になるので、そのたんびにとりかえる。くせの一つかもしれない。 第五日 小供・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫