・・・―― 磯浜へ上って来て、巌の根松の日蔭に集り、ビイル、煎餅の飲食するのは、羨しくも何ともないでしゅ。娘の白い頤の少しばかり動くのを、甘味そうに、屏風巌に附着いて見ているうちに、運転手の奴が、その巌の端へ来て立って、沖を眺めて、腰に手をつ・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・戸数は三十有余にて、住民殆ど四五十なるが、いずれも俗塵を厭いて遯世したるが集りて、悠々閑日月を送るなり。 されば夜となく、昼となく、笛、太鼓、鼓などの、舞囃子の音に和して、謡の声起り、深更時ならぬに琴、琵琶など響微に、金沢の寝耳に達する・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・その内に人々皆奥へ集りお祖母さんが話し出した。「政夫さん、民子の事については、私共一同誠に申訣がなく、あなたに合せる顔はないのです。あなたに色々御無念な処もありましょうけれど、どうぞ政夫さん、過ぎ去った事と諦めて、御勘弁を願います。あな・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・は勿論だが、中産以下、プロ階級の女の集まりでもとかくに着物やおつくりの競争場になりがちであるが、その頃のキリスト教婦人は今の普通の婦人は勿論、教会婦人と比べても数段ピューリタニックであって、若い婦人の集りでも喪に包まれたようで色彩に乏しかっ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・こうした、数々の場合に際会するたびに、深く頭に印象されたものは、貧民を相手とする商売の多くは、弱い者苛めをする吸血漢の寄り集りということでした。 第一質屋がそれであります。合法的に店を張っているには相違ないけれど、苦しい中から、利子を収・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・はじめてのことゆえむろん露払いで、ぱらりぱらりと集りかけた聴衆の前で簾を下したまま語ったが、それでも沢正オ! と声がかかったほどの熱演で、熱演賞として湯呑一個もらった。露払いをすませ、あと汗びしょのまま会の接待役としてこまめに立ち働いたのが・・・ 織田作之助 「雨」
・・・これが導火線、類を以て集り、終には酒、歌、軍歌、日本帝国万々歳! そして母と妹との堕落。「国家の干城たる軍人」が悪いのか、母と妹とが悪いのか、今更いうべき問題でもないが、ただ一の動かすべからざる事実あり曰く、娘を持ちし親々は、それが華族でも・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 無産政党 いまだに、無産政党とか、労農党とかいうと危険な理窟ばかりを並べたて、遊んで食って行く不良分子の集りとでも思っている百姓がだいぶある。 彼等には、既成政党とか、無産政党とか、云ったゞけでは、それがどういうも・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
一 牛乳色の靄が山の麓へ流れ集りだした。 小屋から出た鵝が、があがあ鳴きながら、河ふちへ這って行く。牛の群は吼えずに、荒々しく丘の道を下った。汚れたプラトオクに頭をくるんだ女が鞭を振り上げてあとから・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・が二、三カ所人集りがあった。その輪のどれからか八木節の「アッア――ア――」と尻上りに勘高くひびく唄が太鼓といっしょに聞えてきた。乗合自動車がグジョグジョな雪をはね飛ばしていった。後に「チャップリン黄金狂時代、近日上映」という広告が貼ってあっ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
出典:青空文庫