・・・ けだし社会は個々の家よりなるものにして、良家の集合すなわち良社会なれば、徳教究竟の目的、はたして良社会を得んとするにあるか、須らく本に返りて良家を作るべし。良家を作るの法は、兄弟姉妹をして友愛ならしめ、親子をして親ならしむるにあり。而・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・官吏、軍人、実業家の大頭の連中が、待合にゆくのが遊蕩であると考える俗人を睥睨して集合する築地の有名な待合×××を、この新聞の読者の何人が日常の接触で知っているであろうか、という質問によって。―― 横光利一氏などが中心に十円会という会があ・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・日本の都市と云われた集合地の立体性の皆無さにおどろき 日本の近代文化のおくれた足どりに憐憫とやや嫌悪を抱くだろう。生活上の見聞と感覚の発達した日本人はそう感じるのである。 観光日本が眼をたのしませる何をもつか、ということも大切だろうが其・・・ 宮本百合子 「観光について」
・・・しかも、ただ一人にしてその多くの偶然を持っている人間が二人以上現れて活動する世の中であってみれば、さらにそれらの集合は大偶然となって日常いたる所にひしめき合っているのである。これが近代人の日常性であり必然性である。」以上の推論の結着として、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・十人、十五人と集合して会合をもってさえも、巡査に知れれば直ぐ牢にぶち込まれた。失業保険はないし、年とるまで工場で搾られ、あげ句に放り出されれば乞食でもするしか生きる道がなかった。 工場に働くプロレタリアートと地主の野良を耕す貧農にとって・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ 総体として如何なる気質の人間の集合であるか、箇々の箇人は、その根柢に於て如何なる国民性の上に生存しているか。 現象は、内に、原因を持たずに現れるものではありません。或る人が何か善行をする。或る男が破廉恥な罪悪を犯す。その善行なり、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・p.174ドイツ 小説の主人公はマイスターを典型として統一の方向をとり、力は集合され、人間はドイツ的理想にまで成長し、堪能となり混沌としていた要素は達成された静けさの中に結晶しつつ澄んで来て、修業時代からマイスターが出て来るのであ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・険相な眼と口を帽子の顎紐でしめ上げた警官たちが、行列の両側について歩いて寸刻も離れないばかりか、集合地点には騎馬巡査がのり出した。歩道には、市内各署の特高のスパイが右往左往して日頃目星をつけている人物を監視したり今にもひっぱりそうな示威をし・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・ 時刻と集合の場所とを聞いて置いた僕は、丁度外に用事もないので、まあ、どんな事をするか行って見ようと云う位の好奇心を出して、約束の三時半頃に、柳橋の船宿へ行って見た。天気はまだ少し蒸暑いが、余り強くない南風が吹いていて、凌ぎ好かった。船・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ 或る日、ナポレオンはその勃々たる傲慢な虚栄のままに、いよいよ国民にとって最も苦痛なロシア遠征を決議せんとして諸将を宮殿に集合した。その夜、議事の進行するに連れて、思わずもナポレオンの無謀な意志に反対する諸将が続々と現れ出した。このため・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫