・・・寺院の北側をロッカ・マジョーレの方に登る阪を、一つの集団となってよろけながら、十五、六人の華車な青年が、声をかぎりに青春を讃美する歌をうたって行くのだった。クララはこの光景を窓から見おろすと、夢の中にありながら、これは前に一度目撃した事があ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ただ一言いっておきたいのは僕たちは第四階級というと素朴的に一つの同質な集団だと極める傾向があるが、これはあまりに素朴過ぎると思う。ブルジョア階級と擬称せられる集団の中にも、よく検察してみるとブルジョア風のプロレタリアもいれば、プロレタリア風・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 個性を尊重しなければならぬのは、たとえ、集団的生活に於て、組織が主とされても、所詮、創造は、個人の天分に待たなければならないからです。これを考うる時に今日の画一教育が、良いとは言われないのであります。けれど、階梯として何うしても児童等・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
もし、その作家が、真実であるならば、どんな小さなものでも、また、どんな力ないものでも、これを無視しようとは思わないでありましょう。 個人は、集団に属するのが本当だというようなことから、なんでも、集団的に、階級的に見ようとするのは、・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ この理由は、個人の研究や、創造はいかに貴くとも幾十年の間も、その光輝を失わぬものは少ないけれど、これに反し、集団の行動は、その動向を知るだけでも時代が分るためです。故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなけれ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・私は撒布液のはいった、器械を手に握って、木の下に立っていると、うしろから、「お父さん、いくらしたってだめよ。集団との戦いですもの、負けるにきまってゝよ」と、娘が、笑ったのでした。 成程、そういえないこともなかった。彼等は、夜のうちに、死・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・それを大阪の伝統だとはっきり断言することは敢てしないけれど、例えば日本橋筋四丁目の五会という古物露天店の集団で足袋のコハゼの片一方だけを売っているのを見ると、何かしら大阪の哀れな故郷を感ずるのである。 東京にいた頃、私はしきりに法善・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・黒河からやってくる者たちは、何物も持たず、何物をも求めず、ただプロレタリアートの国の集団農場や、突撃隊の活動や、青年労働者のデモを見たいがためにやってくる。そういう風に見える。しかし、なかには、大褂児の下に絹の靴下を、二三十足もかくしていた・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・が、それと共に兵卒は、背後のいろ/\な関係を集団としての自分達のなかに反映しつゝ、戦争に於ては最も重要な役割をなす。社会関係の矛盾も、資本主義が発展した段階に於て遂行する戦争とプロレタリアートとの利害の相剋も、すべてが戦線に出された兵卒に反・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 見ず知らずの人達と一緒ではあるが患者同志が集団として暮して行くこと、旧い馴染の看護婦が二人までもまだ勤めていること、それに一度入院して全快した経験のあること――それらが一緒になって、おげんはこの病院に移った翌日から何となく別な心地を起・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫