・・・彼女は臨時雇いである。五十七ルーブリ貰っている。 ――本雇いにして貰えばいいのに。 ――事務所で室女中にしてくれるかもしれないって云ってたが、どうなるか。 ――どこでも今人が足りなくて騒いでるじゃないの、集団農場や国営農場へとら・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ガスよけマスク、飛行機、爆弾、そういうものを拵えてしこたま儲けている工場がどんなひとの使いようをするかといえば、臨時雇いで、しかも給料のやすいおとなしい女ばかりを多く雇う。一日十一時間半も働かす。 満州を足場に日本のブルジョア、地主はソ・・・ 宮本百合子 「婦人読者よ通信員になれ」
・・・ 黒田家ではるんを一目見て、すぐに雇い入れた。これが安永六年の春であった。 るんはこれから文化五年七月まで、三十一年間黒田家に勤めていて、治之、治高、斉隆、斉清の四代の奥方に仕え、表使格に進められ、隠居して終身二人扶持を貰うことにな・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・石田は口入の上さんを呼んで、小女をもう一人傭いたいと云った。上さんが、そんなら内の娘をよこそうと云って帰った。 口入屋の娘が来た。年は十三で久というのである。色の真黒な子で、頗る不潔で、頗る行儀が悪い。翌朝五時ごろにぷっという妙な音がす・・・ 森鴎外 「鶏」
明治二十三年八月十七日、上野より一番汽車に乗りていず。途にて一たび車を換うることありて、横川にて車はてぬ。これより鉄道馬車雇いて、薄氷嶺にかかる。その車は外を青「ペンキ」にて塗りたる木の箱にて、中に乗りし十二人の客は肩腰相・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・あなたが馬車を雇いに駆け出しておいでになったあとに、わたくしは二分間ひとりでいました。あなたはわたくしに考える余裕をお与えなさいましたのですわ。その間にわたくしが後悔しておことわりをせずに、我慢していましたのは、よっぽどあなたに迷っていた証・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫