・・・そして、やがて完全に巣を造ってしまいますと、雌鳥は巣について卵を産みました。夏の半ばころには、もはやつばめの子供がなくようになりました。太郎はかわいくてたまりませんでした。そのうちに秋がきて、秋も半ばを過ぎますと、つばめはどこにか、みんな飛・・・ 小川未明 「つばめの話」
・・・何ぞと見るに雉子の雌鳥なれば、あわれ狩する時ならばといいつつそのままやみしが、大路を去る幾何もあらぬところに雉子などの遊べるをもておもえば、土地のさまも測り知るべきなり。 かくてようやく大路に出でたる頃は、さまで道のりをあゆみしにあらね・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・驚いて見ていると、この暴君はまもなくこの哀れな俘虜を釈放して、そうしてあたかも何事も起こらなかったように悠々とその固有の雌鳥の一メートル以内の領域に泳ぎついて行った。善良なるその妻もまたあたかもこの世の中に何事も起こらなかったかのように平静・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 都合の好い時などは古くから居る三羽の雌鳥と今度の六羽とで九つ位も生むので、いつの間にか孝ちゃんの親父さんが例の目で見てしまったらしく、どっからか早速三羽の生み鳥と一羽の旦那様をつれて来た。 孝ちゃんの親父さんが真似を始めたと云って・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・一羽の衰えた雄鳥と四羽の雌鳥は子供達の眼をかすめて、早い動作をもって、豊かでない腹をみたして居る。人間も鶏も食物に対する饑えたものの特別に緊張した気持で一方は一瞬の間でも早く自分等の口に煮物が入る事を望み、一方は、無意識の間に一粒でも多く食・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫