・・・の内に僕も作句をはじめた。すると或時歳時記の中に「死病得て爪美しき火桶かな」と云う蛇笏の句を発見した。この句は蛇笏に対する評価を一変する力を具えていた。僕は「ホトトギス」の雑詠に出る蛇笏の名前に注意し出した。勿論その句境も剽窃した。「癆咳の・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・ 寺門静軒が『江頭百詠』を刻した翌年遠山雲如が『墨水四時雑詠』を刊布した。雲如は江戸の商家に生れたが初文章を長野豊山に学び、後に詩を梁川星巌に学び、家産を蕩尽した後一生を旅寓に送った奇人である。晩年京師に留り遂にその地に終った。雲如の一・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・「労働雑詠」等に到って、この詩人が、小諸の農村生活の日常に結びつくことで、こんなに自然を観る態度が異って来たかとおどろくばかりのものがある。三四年前、「されば落葉と身をなして、風に吹かれて翻りつゝ」ロマンティックな文学的放浪にあった時代の作・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫