・・・ 以上のいい方はあまり大雑駁ではあるが、二三年来の詩壇の新らしい運動の精神は、かならずここにあったと思う。否、あらねばならぬと思う。かく私のいうのは、それらの新運動にたずさわった人たちが二三年前に感じたことを、私は今始めて切実に感じたの・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・一目見てごたごたし、雑駁な印象を強く与えられたから、しんから愛らしい心持で欲しいなと思うようなものは見つかりませんでした。〔一九二二年五月〕 宮本百合子 「博覧会見物の印象」
・・・失望に近い程度に於て雑駁なものだ。なかに、 仏国の「瑠璃の浜辺」にある辟寒地で、二万人を入れるカジノの中に、世界の遊民が、一杯の珈琲に安閑として居るのを見て、アリストートルと希臘文明に顕れた幸福主義の結果だと論じたという事は、私に重大な・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・学期ごとにこんな風で、専門の学問に手を出した事のない子爵には、どんな物だか見当の附かぬ学科さえあるが、とにかく随分雑駁な学問のしようをしているらしいと云う事だけは判断が出来た。しかし子爵はそれを苦にもしない。息子を大学に入れたり、洋行をさせ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いのである。恐らく美に対するその全存在的な感激において、当時の我々の祖先はその後のどの時代の子孫よりも優っていただろう。彼らを新しい運動に引き入れたのは、確かに芸・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫