・・・ 童話は、空想的産物なるが故にそれだけ現実と共闘し、現実性を帯びなければならぬ筈なるに、これまでの作家は、童話はお伽噺であり、お伽噺は、所詮架空を材料とした作品なりとの理由をもって、現実から出来るだけ離脱しようとしたのであります。そして、そ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更にすすんでその人がファッシズムに従うように強制した。マルクシストであったものこそファシストになるべきとされた。ここに、おどろくべく深い人間精神虐殺の犯・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 一八四五年にカールは、ベルギー政府とプロシヤ政府連合の追放政策から自身を守るためにプロシヤの国籍から離脱した。故郷なき一家となった。優しい夫であったカールは、二人の幼な子をもつイエニーとこのことについてもよく話しあったことだろう。カー・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・あらゆる市民が半封建的なものからの離脱を努力しているとき、文学もブルジョア民主主義的立場からの面をもたないわけにはゆかない。人間性の確保、個性の確立は、ここに根をおいて文学の上に主張されうる。けれども、後進の日本は、民法のブルジョア民法とし・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・であった為めに、それから享容れた或る純真さはあったかも知れないが、他面に於て前に述べた伝統から享容れた欠点のある事も否めない事実であるから、これからは一切の不純な気持、身に附き添った色々なこだわりから離脱し、創作境そのものの中に自分を投げ捨・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・ 大体日本文学は、その歴史の発端から、風流を文学の芸術性の骨子として、社会生活から或る程度離脱した位置に自身をおいた知性と感性との表現としての伝統をもって来た。日本文学は主情的な文学の特質をもっていたといわれている。その原因には少くとも・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
・・・充分生きた魂の自然な離脱、休安という感に打れた。八十四歳にもなると、人はあのように安らかに世を去るものなのだろうか。 私は、これまで弟妹や外祖母、叔父などの死に会っていた。その経験から、この祖母の死も冷静に受けられると思っていた。年に不・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ブルジョアジーの傀儡君主として王位についた時、一層凡庸化し、銭勘定に終始する俗人共の世界に反抗して、ユーゴー、ド・ミッセ、デュマ、メリメ、ジョルジュ・サンドなどは、いずれもそれぞれの形で日々の現実から離脱しロマンチシズムの芸術にたてこもった・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫