・・・もちろんお浪親子がいかに一本路を見張っているにしても、その眼を潜って甲府へ出ることはそれほど難しいことでは無いが、元は優しいので弱虫弱虫と他の児童等に云われたほどの源三には、その親切なお浪親子の家の傍を通ってその二人を出し抜くことが出来ない・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・ただ、その仲間と云うのも、どんな風な仲間と云ってよいのか、一口で云うのは難しいことでした。何故なら、彼女のその仲間は、話が出来ました。彼に話しが出来ることが、却って二人の間にちっとも共通な言葉をなくして仕舞っていたからです。 その仲間と・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ことに瀬戸内海のように外洋との通路がいくつもあり、内海の中にもまた瀬戸が沢山あって、いくつもの灘に分れているところでは、潮の満干もなかなか込み入って来てこれを詳しく調べるのはなかなか難しいのです。しかし、航海の頻繁なところであるから潮の調査・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・他の一つは、プロレタリア・アレゴリーというものは、難しいもんだな、アレゴリーと諷刺とは、プロレタリア文学の形式として、どっちが広汎な、階級的役立ちに利用され得るだろうか、ということである。 アレゴリー、譬話というとわれわれは、まずエ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・そして、彼が自分の子供たちに皆マリ、アンヌ、オットウ、ルイなどという西洋の名をつけていたことに思い到り、しかもそれをいずれも難しい漢字にあてはめて読ませている、その微妙な、同時に彼の生涯を恐らく貫ぬいているであろう重要な心持を、明治文学研究・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 文学の本質というものをひとくちに表現するのは難しいけれども、つまりは人間生活の諸相の要求の探求であって、日々の我々の現実に対して一人の作家が、人間及び芸術家としてかかわりあってゆく、そのいきさつが、その評価が、作品の世界の現実として創・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・今は不況時代で就職は難しいと一般に考えられていますが、しかし、誠意をもって、たましいを打ちこんで自分の職務に尽そうとしている人は少ない。 ですから、職を求める人がそこらにほうきではきよせる程あっても、要するに、誠意を認められている人はや・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
どうもこれは大へん難しいおたずねだと思われますね。こういう質問を受けて、私が返答に困るのは、いってみれば、今のような世の中での生活は重荷がベタ押しで、取り出して見れば経済的な重荷、女として経験しつつある重荷、および作家とし・・・ 宮本百合子 「女流作家多難」
・・・然し、目下の所、いつ其が実現されるか難しい。我々の経済状態では、六七十円の家賃は、あまりうれしくない。高く出すと、出せない時もある心配が要る。此割合で行くと、二十八坪ばかりあることになる。これ丈果してあるのか? 処々、実際のプロ・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・「こういう距離のあるところでは、バルザックの作品を近くで見た、気難しい人の心を完全に捕えかねる空想的な部分というものが目に映らなくてそれが却って人の心を惹きつける魅力を増すということになるのである」と。サント・ブウヴが、「人間喜劇」はロマン・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫