・・・ その長襦袢で……明保野で寝たのであるが、朱鷺色の薄いのに雪輪を白く抜いた友染である。径に、ちらちらと、この友染が、小提灯で、川風が水に添い、野茨、卯の花。且つちり乱るる、山裾の草にほのめいた時は、向瀬の流れも、低い磧の撫子を越して、駒・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・踏掛けて塗下駄に、模様の雪輪が冷くかかって、淡紅の長襦袢がはらりとこぼれる。 媚しさ、というといえども、お米はおじさんの介添のみ、心にも留めなそうだが、人妻なれば憚られる。そこで、件の昼提灯を持直すと、柄の方を向うへ出した。黒塗の柄を引・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・◎雪輪の中に梅と菊との花をすり出した、あとはくもりの小さい硝子の入った障子。○白キャラコのカーテン。そのあおり、東の表の欄間はすっかり形つなぎの硝子。こっちからなかなか風が入る。 ○線路が見える。 黄色い羽形の上に・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
出典:青空文庫