・・・ 十四日 雪隠でプラス、マイナスと云う事を考える。 十五日 今日のようなしめっぽい空気には墓の匂いが籠っておるように思う。横になって壁を踏んでいると眼瞼が重くなって灰吹から大蛇が出た。 十六日 涼しいさえさえした朝だ。まだ光の弱・・・ 寺田寅彦 「窮理日記」
・・・大将雪隠へ這入るのに火鉢を持って這入る。雪隠へ火鉢を持って行ったとて当る事が出来ないじゃないかというと、いや当り前にするときん隠しが邪魔になっていかぬから、後ろ向きになって前に火鉢を置いて当るのじゃという。それで其火鉢で牛肉をじゃあじゃあ煮・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
・・・家庭を破壊してズボンの細きを追う人がある。雪隠に烟草を吹かし帽子の型に執着する子供を「人」たらしむべき教育は実に難中の難である、ああ、かくして虚栄は人を魔境にさそい堕落の暗礁に誘うローレライである。 人生は混沌。肉の執着といい生命虚栄の・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫