・・・ 当にしていた印税を持って来てくれる筈の男が、これも生活に困って使い込んでしまったのか途中で雲隠れしているのだと、ありていに言うと、老訓導は急に顔を赧くした。断られてみれば闇屋もふと恥しい商売なのであろうか。 老訓導は重ねて勧めず、・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ままになる事なら、その下手くその作品を破り捨て、飄然どこか山の中にでも雲隠れしたいものだ、と思うのである。けれども、小心卑屈の私には、それが出来ない。きょう、この作品を雑誌社に送らなければ、私は編輯者に嘘をついたことになる。私は、きょうまで・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ ある電車運転手は途中で停車して共同便所へ一時雲隠れしたそうである。こうなると運転手にも人間味が出て来るから妙である。 矢来下行き電車に乗って、理研前で止めてもらおうとしたが、後部入り口の車掌が切符切りに忙しくてなかなか信号ベルのひ・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 恋愛はいくら自由だといっても、男が女と関係して姙娠したり、子供を生んだりした時雲隠れしてそれで終れりとしてしまうことは出来ない。 子供の哺育費というものは男の月給の中から職業組合を通して取られる。 若しその男がずるくて女が補助・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・恋愛はいくら自由だといっても、男が女と関係して姙娠したり、子供を生んだりした時雲隠れしてそれで終れりとしてしまうことは出来ない。子供の哺育費というものは男の月給の中から職業組合を通して取られる。それだけの社会的義務がある。若しその男がずるく・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫