・・・ 偶然の中に於て自然を穿鑿し種々の中に於て一致を穿鑿するは、性質の需要とて人間にはなくて叶わぬものなり。穿鑿といえど為方に両様あり。一は智識を以て理会する学問上の穿鑿、一は感情を以て感得する美術上の穿鑿是なり。 智識は素と感情の変形・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って異教席というこの光栄ある場所に私が数時間窮屈をする必要もない。然しながら実は私は六月から・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・市内のある工廠で一挙に数百人の女工を求めて来たので、市の紹介所は、小紡績工場の操短で帰休している娘たちを八王子辺から集めて、やっとその需要にこたえた状態である。 さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・年は二十八九と四十がらみで、一目見ても過去にまとまった学歴も何もなく、或る時代、或る時期の社会的需要に応じて、職業を換えて行く種類の人間らしく見えた。よくある、商売人とも政治屋とも片のつかない一種のタイプなのである。「お上りなさい」・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・ 八年制の国民学校を卒業した少年少女たちは、やっぱりそのようにして勤労の生活に入ってゆくのであろうが、その需要に即してみれば、六年を終っただけの子供より働く少年少女としての肉体と精神との能力は、余程高められているわけになるのは明白である・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・作家と読者との関係は単に需要者・供給者の関係ではない肉親的交流において見られたのであった。 再び文学の大衆化が文壇に論ぜられるに当って、大衆の文化的発展の諸要因が無視されると共に、作家との関係では、作品の給与者、被給与者としての面が強調・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・或る種の人々はその緊張のために思考する力を喪って、より強烈な需要に自分の生活を吸収されつくしてしまう。経験が歴史の推進にとって重大な価値をもつのは十分な自覚と観察と判断と結論とが種々様々な思考と行動との間からまとめられて来るからであろう。そ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ だから日本のように非常に短い時間に、非常に沢山のフィルムを、営利会社が有っている映画館の需要を充たすために粗製濫造をする、そういう悲劇は製作者にとってないわけである。それで今までプドフキンでも、エイゼンシュテインでも非常に長い時間かか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ こういう応急的な思想性の需要と供給との現象が、現在の文化面を忙しく右往左往しているのであるが、日本ではおそらく明治開化の時代にも、日露戦争後の社会問題擡頭期にも、第一次欧州大戦後の社会科学への関心の高まった時代にも、今日見られると同じ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
生産的な場面での女の働きは益々範囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれば、それぞれ職場での専門技術上の制約があり・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
出典:青空文庫