・・・ 妊婦は、あとで「脳振盪」と、病床日誌に死の原因を書きつけられていた。 五 今度は、山のような落盤の上に下敷きとなっている十四人を掘り出さなきゃならなかった。洞窟の奥の真暗な横坑にふさぎ込められていた土田は、山・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・けれども私が、脳振盪を起して倒れたとすれば、諸君の笑は必ず倫理的の同情に変ずるに違いありますまい。こういう風に或程度まで芸術と倫理と相離るる部分はあるけれども、最後または根柢には倫理的認容がなければならぬのであります。従って小説戯曲の材料は・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・確かに重大な、人間の霊肉を根本から震盪するものではあっても、人間の裡にある生活力は多くの場合その恋愛のために燃えつきるようなことはなく、却って酵母としてそれを暖め反芻し、個人の生活全般を豊富にする養液にしてしまいます。 また恋愛は、独特・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・ 明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おのずから新たな文芸思潮の摸索もあって、今日はまことに劇しい時代である。日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果している・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・そしてそのひどい震盪は、純文学の枢軸であった人間としての自我の拠りどころを全く見失わせるに至った。この純文学の悲劇は、しかしながら既に数年に亙って準備されていたものであったとも云える。何故なら、プロレタリア文学との対立の時期に於ても、純文学・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
出典:青空文庫