・・・ポオの後代を震駭した秘密はこの研究に潜んでいる。 森鴎外 畢竟鴎外先生は軍服に剣を下げた希臘人である。 或資本家の論理「芸術家の芸術を売るのも、わたしの蟹の鑵詰めを売るのも、格別変りのある筈はない。し・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 当局及び諸宗は震駭した。中にも極楽寺の良観は、日蓮は宗教に名をかって政治の転覆をはかる者であると讒訴した。時節柄当局の神経は尖鋭となっていたので、ついにこの不穏の言動をもって、人心を攪乱するところの沙門を、流罪に処するということになっ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・彼が私を震駭させただけである。私は、否、人々は、あらゆるクラスの芸術を、ふくめて、芸術と言っているようである。つぎの言葉が、成り立つ。「それを創る芸術家に、金が、あればあるほど、佳い。さもなくば商才、人に倍してすぐれ、画料、稿料、ひとより図・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・たとえばまた自分の専攻のテーマに関する瑣末な発見が学界を震駭させる大業績に思われたりする。しかし、人が見ればこれらの「須弥山」は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・がらんとした建物じゅうにはびこる無気力な静寂を、震駭させずには置かないという響だ。食事の知らせである。 がっしり天井の低い低い茶っぽい食堂の壁に、夥しく花鳥の額、聯の類が懸っている。棚には、紅釉薬の支那大花瓶が飾ってある。その上、まだ色・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・その新鮮な感受性によって受ける全身を震駭するような歓楽。その弾性に充ちた生の力から湧き出て来る強烈な酣酔。それはやがて永遠に我々の手から失われるだろう。一生の仕事は先へ行ってもできる。青春は今きりだ。これを逸すれば悔いを永久に残すに相違ない・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・ 現戦争はヨーロッパの人民全体を、戦場にあると否とにかかわらず、魂の底から震駭させた。この深刻な経験が結晶せずに終わるだろうと信ずるのは、世界のすみにあって戦争の苦しさをのんきに傍観している浅薄な国民だけだろう。 しかし世界はそう単・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫