・・・途敢て忘れん阿郎の恩を 宝刀を掣将つて非命を嗟す 霊珠を弾了して宿冤を報ず 幾幅の羅裙都て蝶に化す 一牀繍被籠鴛を尚ふ 庚申山下無情の土 佳人未死の魂を埋却す 犬江親兵衛多年剣を学んで霊場に在り 怪力真に成る鼎扛ぐべし 鳴鏑・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ この島は周囲三十里余の島だが、そこに四国八十八カ所になぞらえた島四国八十八カ所の霊場がある。山の洞窟や、部落のなかや、原に八十八の寺や、庵があるのである。 毎年二月半ばから四月五月にかけて但馬、美作、備前、讃岐あたりから多くの遍路・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・われらをして、まずこの神聖なる過去の霊場より、不体裁なる種々の記念碑、醜悪なる銅像等凡て新しき時代が建設したる劣等にして不真面目なる美術を駆逐し、そしてわれらをして永久に祖先の残した偉大なる芸術にのみ恍惚たらしめよ。自分は断言する。われらの・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・うその夜に、小い阿弥陀様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳に汝が願い叶え得さすべし、信心怠りなく勤めよ、如是畜生発菩提心、善哉善哉、と仰せられると見て夢はさめた、犬はこのお告に力を得て、さらば諸国の霊場を巡礼して、一は、自分が喰い殺したる・・・ 正岡子規 「犬」
出典:青空文庫