・・・勢い霊玉の奇特や伏姫神の神助がやたらと出るので、親兵衛武勇談はややもすれば伏姫霊験記になる。他の犬士の物語と比べて人間味が著しく稀薄であるが、殊に京都の物語は巽風・於菟子の一節を除いては極めて空虚な少年武勇伝である。 本来『八犬伝』は百・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・浄行大菩薩といい、境内の奥の洗心殿にはいっているのだが、霊験あらたかで、たとえば眼を病んでいる人はその地蔵の眼に水を掛け、たわしでごしごし洗うと眼病が癒り、足の悪い人なら足のところを洗うと癒るとのことで、阿呆らしいことだけれど年中この石地蔵・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・de la mort.D. H. Lawrence : Sons and lovers.Andr Gide : La porte troite.万葉集、竹取物語、近松心中物、朝顔日記、壺坂霊験記。樋口一葉 にごりえ、たけくら・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ この島四国めぐりは、霊験あらたかであると云い伝えられている。 苦行をしてめぐっているうちに盲目の眼があいたり、いざりの脚が立ったり、業病がなおったりした者があると云われている。悪いことをした者は途中で脚がすくんであるけなくなると云・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・こんな事を考えてみるだけでもそこにいろいろなまじめな興味ある問題を示唆されるのであるが、その示唆の呪法の霊験がこの肉筆の草稿からわれわれの受けるなまなましい実感によっていっそう著しく強められるであろうと思われるのである。・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・近きベンチへ腰をかけて観音様を祈り奉る俄信心を起すも霊験のある筈なしと顔をしかめながら雷門を出づれば仁王の顔いつもよりは苦し。仲見世の雑鬧は云わずもあるべし。東橋に出づ。腹痛やゝ治まる。向うへ越して交番に百花園への道を尋ね、向島堤上の砂利を・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・お悦は真赤な頬をふくらし乳母も共々、私に向って、狐つき、狐の祟り、狐の人を化す事、伝通院裏の沢蔵稲荷の霊験なぞ、こまごまと話して聞かせるので、私は其頃よく人の云うこっくり様の占いなぞ思合せて、半ばは田崎の勇に組して、一緒に狐退治に行きたいよ・・・ 永井荷風 「狐」
・・・それ等の思いつきを、彼女は日頃信心する妙法様の御霊験と云っていたのである。 果樹園には、この土地で育ち得るすべての種類の果樹が栽培されていた。 そして、収穫時が来ると、お初穂をどれも一箇ずつ、妙法様と御先祖にお供えした後は、皆売り出・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 文吉は宇平を尋ねて歩いた序に、ふと玉造豊空稲荷の霊験の話を聞いた。どこの誰の親の病気が直ったとか、どこの誰は迷子の居所を知らせて貰ったとか、若い者共が評判し合っていたのである。文吉は九郎右衛門にことわって、翌日行水して身を潔めて、玉造・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・丁度あの Zola の Lourdes で、汽車の中に乗り込んでいて、足の創の直った霊験を話す小娘の話のようなものである。度々同じ事を話すので、次第に修行が詰んで、routine のある小説家の書く文章のようになっている。ロダンの不用意な問・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫