・・・ 時々、此の青っぽい白眼も奇麗に見える事があるけれ共、此頃の様なまとまらない様子をして居ると、眼ばっかりが生きて居る様な――何だか先ぐ物にでも飛び掛りそうに見える。 弟が「どら猫」の眼の様だと笑った。 ほんとうに此頃は「どら猫」・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・ 室へ帰って手帳に物を書いていたら、薄いカーテンに妙に青っぽい閃光が映り、目をあげて外を見ると、窓前のプラタナスに似た街路樹の葉へも、折々そのマグネシュームをたいた時のような光が差して来る。不思議に思って首をさし出したら、つい先が小公園・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・にした頭をまるむきに出して青っぽい袴と黒か白位の着物をノコッと着た肇を見てつくづく気の毒な様な気持がした。 この頃の若い女の人は随分飛び飛びな種々な色を身につける。 髪に新ダイヤが輝いて赤い「ツマミ細工」のものなんかも一緒に居る。・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・遠くの欅の梢や松の梢のあたり 薄すり青っぽい靄がこめている。まだポトリ ポトリ 雨のしずくがトタン屋根にしたたっているが、前の瓦屋根越に見えるよその排気筒はしずかにゆるやかにまわって、蠅が 巻き上げた簾のところで かたまってとびまわっている・・・ 宮本百合子 「無題(十)」
出典:青空文庫