・・・又文人に限らず、如何なる職業にしろ、単に米塩の為め働くというのは生活上非合理であって、米塩は其職業に労力した結果として自ずから齎らさるゝものでなければならぬ。然るに文学上の労力がイツマデも過去に於ける同様の事情でイクラ骨を折っても米塩を齎ら・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・しかし生の真理の重要な部分はむしろ非合理的の構造を持ち、それを把握するためにはそれに対応する直観的英知によらねばならぬ。さらに生の真理の最深部は啓示によるのでないならとらえることができぬ。否それはわれわれがとらえるのでなく、とらえられるので・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・アメリカその他の映画が、たとえば恋愛を扱うにしろ、社会の非合理から生じた悲劇を悲劇のまま描いたものか、さもなければナンセンス、ユーモアに韜晦しているもの足りなさを、今日のソヴェト映画は、どのような内容と技術の新生面を開いているだろうか。小説・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・ 彼等はいずれもそれぞれの時代、それぞれの形で、人間は不合理と紛乱と絶望の頁を経験したが、それでも猶、窮極に人間は絶望しきらず、非合理になりきらず、人生は謙遜に愛すべきものであることを語っている作家たちだ。 彼等はそれぞれの制約に対・・・ 宮本百合子 「彼等は絶望しなかった」
・・・民間の経済雑誌に、国際間の経済統計、生産指数などの発表されることを禁じた日本の軍部は、そうして世界の現実を人々の目からかくしたと同時に、非合理な戦争によって熱病のように混乱、高騰、崩壊する日本国内生産と経済事情を――人民生活の全面的な破壊の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・に鋭い筆致で描かれているこの事実をスタインベックがソヴェトの人々に向って話したとしたら、こんな非合理で非人間的な浪費があり得ると思うかときいたとしたら、ソヴェトの人たちは何と答えるだろう。気違いだ! と答えるにきまっている。しかし、この場合・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・という作品が『世界』に出ていましたが、作者が目撃したその土地の人の蒙った残酷な運命、やがて非合理に殺されてしまうことを書いています。その作品で作者は、主人公たる自身がそれらの実状を目撃する立場にあるという、その深い事実についてなんと感じたか・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 日本の人民は、東條時代を通じて、もっとも非合理野蛮な侵略主義者の善と悪との規準で支配されてきた。「聖戦」に対して、いくらかでも疑問をもち、侵略行為の人類的悪についてほのめかしでもしようものなら、憲兵と警察と密告者の餌じきにされた。その・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
・・・ 真の文化性、文化に立った婦人の創造力というものは、こういう非合理や非現実に自然な居心地わるさを感じるものだろうと思われる。教育の程度というようなものが、文化の程度や質と一致するといい切れない適切な実例であると思う。教育は彼女たちに物価・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・この合理化を非合理化だと叫んでいるのは、英国人の商魂という特殊性を没却した第三インターナショナルの指令のままに誤った戦法を繰返しつつある小数運動者ばかりではないかと。 ――君と私とは心理状態が違う。だからたがいに歩み合って協調しようと云・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫