・・・稍しばらく控所で待たされてから、女給仕に案内せられて廊下のはずれの方へと連れて行かれるので、館主の大橋さんが面会するのかと思うと、そうではなくて、其の使用人の中の重立ったらしい人の詰めている事務室であった。その人はわたくしの一存では賠償金の・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・それは他日御面会の節に譲ります。不折は男性、女性、中性を見ずに帰りましたね。不折は奴的の画が好きなんだろうと思います。凡鳥君によろしく。以上。六月十二日 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・ ――ああ、それから、面会の人が来てますからね。治療が済んだら出て下さい。 僕が黙ったので彼等は去った。 ――今日は土曜じゃないか、それにどうして午後面会を許すんだろう。誰が来てるんだろう。二人だけは分ったが、演説をやったのは誰・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・それはわたくしが最初あなたに手紙を差上げて御面会がいたしたい、おいでを願いたいと申したのが子供らしいと申すのでございます。 こう申上げるのをお信じ下さいますでしょうか。どうも覚束のうございますね。わたくしはあなたの女の手紙は云々とお書き・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・あるいは面会が出来るであろうと楽しんで居る。黙語氏が一昨年出立の前に秋草の水画の額を一面餞別に持て来てこまごまと別れを叙した時には、自分は再度黙語氏に逢う事が出来るとは夢にも思わなかったのである。○去年の夏以来病勢が頓と進んで来て、家内・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・正月二日に山口県の田舎へ行って、宮本の母を東京につれて来て、面会を要求し、やっと生きている姿をたしかめた。以来十二年間宮本の獄中生活がつづいた。一月十五日には私も検挙された。その切迫した数日のうちに、苦しい涙が凝りかたまって一粒おちたという・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・ 作人はその間に、魯迅と一緒にあずけられた家から祖父の妾の家へ移って、勉学のかたわら獄舎の祖父の面会に行ったり、「親戚の少女と淡い、だが終生忘られない初恋を楽しんだりしていた。」 魯迅と作人との少年時代の思い出は、このように異った二・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・宮本の母さえも、警視庁で命ぜられたとおり自分が息子の顕治に面会した場所や健康状態については、沈黙を守っているという有様であった。 さかのぼって考えれば一九三一年以来、はじめて、小説にうちはまってゆけるゆとりが作者の心に生じた。また一九三・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・森は田辺に着いたし、景一に面会して御旨を伝え、景一はまた赤松家の物頭井門亀右衛門と謀り、田辺城の妙庵丸櫓へ矢文を射掛け候。翌朝景一は森を斥候の中に交ぜて陣所を出だし遣り候。森は首尾よく城内に入り、幽斎公の御親書を得て、翌晩関東へ出立いたし候・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・客僧は承引して、あすの巳の刻に面会しようと云った。二人は喜び勇んで、文吉を連れて寺へ往く。小川と盗賊方の二人とは跡に続く。さて文吉に合図を教えて客僧に面会して見ると、似も寄らぬ人であった。ようようその場を取り繕って寺を出たが、皆忌々しがる中・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫