・・・と、私は床の間の本箱の側に飾られた黒革のトランクや、革具のついた柳行李や、籐の籠などに眼を遣りながら、言った。「まあね。がこれでまだ、発つ朝に塩瀬へでも寄って生菓子を少し仕入れて行かなくちゃ……」 壁の衣紋竹には、紫紺がかった派手な・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・そして馬の顔の毛や、革具や、目かくしに白砂糖を振りまいたようにまぶれついた。 二 親爺のペーターは、御用商人の話に容易に応じようとはしなかった。 御用商人は頬から顎にかけて、一面に髯を持っていた。そして、自分・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・母とわたくしも同じくこの馬車に乗ったが、東京で鉄道馬車の痩せた馬ばかり見馴れた眼には、革具の立派な馬がいかにも好い形に見えた。馭者が二人、馬丁が二人、袖口と襟とを赤地にした揃いの白服に、赤い総のついた陣笠のようなものを冠っていた姿は、その頃・・・ 永井荷風 「十九の秋」
出典:青空文庫