・・・元来、僕は音痴で、小学校からずっと唱歌は四点で、今でも満足に歌える歌は一つもありません。その僕が声楽家のあなたと道連れになるなんて……。いや、実際ひどい音痴でしてね。だから歌は余り好きな方じゃなかったんですよ。いや、むしろ大きらいな方なんで・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 「ピアノが聞えるね。」 彼は、いよいよキザになる。眼を細めて、遠くのラジオに耳を傾ける。「あなたにも音楽がわかるの? 音痴みたいな顔をしているけど。」「ばか、僕の音楽通を知らんな、君は。名曲ならば、一日一ぱいでも聞いて・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・僕んところは親の代から音痴なんです。何か御用? 奥田先生なら、ついさっき帰ったようですよ。 いいえ、兄さんに逢いに来たんじゃないんです。本日は、野中弥一先生にお目にかかりたくてまいりました。 なあんだ、うちで毎日、お目にかかってるじ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫