・・・おびただしいそういう連中の形作る底のひろい三角形の頂点の部分、「情熱と信念」とをもって今日動いている一部の指導的な連中と、大衆を指導すべき真面目な一部の文学者である自分たちとが結合すべしというのである。 こういう「大人」がこの社会につい・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・――みんな出来るが、いざ、さあ議長ここに一寸書いて下され、とペンと書類とをつきつけられると、ピョートルの動顛は頂点に達する。――ピョートルは字を知らないという不便を辛棒しかねる。そうかと云って、字を知っている奴は村の富農のワーシカだとしたら・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ この混乱と没規準とが頂点に達した一九三四年後半、上述のような混迷した芸術至上主義、人間的文学論に飽き足りない一団の批評家、作家によって、一つの文学的気運が醸し出された。舟橋聖一、豊田三郎、小松清等の諸氏によって提唱されはじめた「行動主・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 常識というものは、いつでもそれぞれの社会の歴史が可能としている進歩の最低限を示すとともに、それぞれの社会のもっている保守の最頂点を示しているものである。そういう常識の本質をつかんで、人間の幸福に向って、絶えず常識の能動な面を刺戟してゆ・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・しかし、これは、評論家としてのこの著者の内にある、よいものが頂点まで育ち切っていないと云うことで、正当な成育を阻む性質のものがあるという意味ではないと思う。 多くの作家たちにも恐らくこの評論集は読まれたことだろう。それらの人々の心にどん・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・日本の明治以来の興隆期の文化は、夏目漱石でその頂点に達し同時に漱石の芸術には、今日の日本を予想せしめる顕著な内部的矛盾が示されている。 寺田氏の文化性というものも、日本のその時代の特色を多くもっていると思う。社会的な境遇から云っても、寺・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・それぞれの人の為人の高低がそこに語られているばかりでなく、婦人そのものの社会的自覚が、その頂点でさえもなお遙かに社会的には狭小な低い視野に止っていた日本の女の歴史の悲しい不具な黎明の姿を、そこに見るのである。 景山英子は、その生涯の間に・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ オセロの悲劇の頂点は、オセロの嫉妬だけにおかれていない。オセロの人間的尊厳を愚弄されたと思った憤りと絶望の深さにある。その角度からみれば、地球上に植民地というものが存在し、人種間の偏見が少しでものこされている限り、オセロの悲劇のファク・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
一 ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙の釦が巴里の半景を歪ませながら、幽かに妃の指紋のために曇っていた。 ネー将軍は・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・全身に溢れた力が漲りつつ、頂点で廻転している透明なひびきであった。 梶は立った。が、またすぐ坐り直し、玄関の戸を開け加減の音を聞いていた。この戸の音と足音と一致していないときは、梶は自分から出て行かない習慣があったからである。間もなく戸・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫