・・・ ――――――――――――――――――――――――― 病弱な修理は、第一に、林右衛門の頑健な体を憎んだ。それから、本家の附人として、彼が陰に持っている権柄を憎んだ。最後に、彼の「家」を中心とする忠義を憎んだ。「主・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・医者の不養生というほどでもなかったろうが、平生頑健な上に右眼を失ってもさして不自由しなかったので、一つはその頃は碌な町医者がなかったからであろう、碌な手当もしないで棄て置いたらしい。が、不自由しなかったという条、折には眼が翳んだり曇ったりし・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・下宿の一室に、死ぬる気魄も失って寝ころんでいる間に、私のからだが不思議にめきめき頑健になって来たという事実をも、大いに重要な一因として挙げなければならぬ。なお又、年齢、戦争、歴史観の動揺、怠惰への嫌悪、文学への謙虚、神は在る、などといろいろ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 君、からだを頑健にして置きたまえ。作家はその伝記の中で、どのような三面記事をも作ってはいけない。 追記。文芸冊子「散文」十月号所載山岸外史の「デカダン論」は細心鏤刻の文章にして、よきものに触れたき者は、これを読め。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・性来頑健は彼は死ぬ二三年前迄は恐ろしく威勢がよかった。死ぬ迄も依然として身体は丈夫であったけれど何処となく悄れ切って見えた。それは瞽女のお石がふっつりと村へ姿を見せなくなったからであった。彼がお石と馴染んだのは足かけもう二十年にもなる。秋の・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫