ずっと前からM君にゴルフの仲間入りをすすめられ、多少の誘惑は感じているが、今日までのところでは頑強に抵抗して云う事を聞かないでいる。しかしとにかく一度ゴルフ場へお伴をして見学だけさせてもらおうということになって、今年の六月・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・もっとも多くの場合にこのような独創力と耐久力を併有しているような種類の人間は、同時にその性状が奇矯で頑強である場合が多いから、学者と言っても同じく人間であるところの同学や先輩の感情を害することが多いという事実も争われないのである。そういう風・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかし単にいろいろの優秀な楽器が寄り集まっただけでは音楽にはならないと同様に、単にいろいろな個性が他と没交渉に各自の個性を頑強に主張しているだけでは連句は決して成立しない。それらの相反するものが融合調和し相互に扶助し止揚することによって一つ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それでも頑強に応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉にあげられる。迷惑な事である。 あれはともかくもやはり西洋人のまねから起こった事には相違ない。不幸にして西洋の社交界へ顔を出した事がないし、出たところで言語がよくわからないから、西・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・あんなに頑強に見えたシカゴ軍があんまりもろく粉砕されたからです。斯う云ってはなんだか野球のようですが全くそうでした。そこで電鈴がずいぶん永く鳴りました。そのすきとおった音に私の興奮した心はもう一ぺん透明なニュウファウンドランドの九月というよ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・は十九世紀において、ヨーロッパに出版業が企業として擡頭し始めた時代に、作者たちが、どんなにその営利業の本性をむき出した奸策と闘い、打算に抵抗し、頑強に作家として闘わなければならなかったかということを、暑くるしいほどに描き出している。 芥・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・き非常に感覚的な、多彩なゴーリキイが既にロシアの現実的情勢におくれはじめたナロードニキの学生達の観念とヴォルガとの間で揺れ、言葉のからくりの熟達者であった当時のインテリゲンツィアに対し、秘かに、だが、頑強に民衆の真情、飾らぬ言葉を主張してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ これらの人々は、いずれも自分の遭遇した時代の種々さまざまな矛盾をもっとも偽りない心で悩みつつ頑強に人類の幸福とより合理的な社会を求める熱誠を棄てなかった人々である。そして、永年にわたる困難な闘いを通じて、遂にその解決を見出した人々であ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・それは総ゆる皮膚病の中で、最も頑強な痒さを与えて輪郭的に拡がる性質をもっていた。掻けば花弁を踏みにじったような汁が出た。乾けば素焼のように素朴な白色を現した。だが、その表面に一度爪が当ったときは、この湿疹性の白癬は、全図を拡げて猛然と活動を・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・漱石は、変なことはないよ、いい文句じゃないか、と答えたが、樗陰は、いや、おかしい、と頑強に主張した。漱石は立って書斎から李白の詩集を取って来て、しきりに繰っていたが、なるほど君のいう通りだ、人静月同眠だね、と言った。樗陰は、そうでしょう、そ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫