・・・生命がけで、描いて文部省の展覧会で、平つくばって、可いか、洋服の膝を膨らまして膝行ってな、いい図じゃないぜ、審査所のお玄関で頓首再拝と仕った奴を、紙鉄砲で、ポンと撥ねられて、ぎゃふんとまいった。それでさえ怒り得ないで、悄々と杖に縋って背負っ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・加納さんは、私と同郷の、千葉の人なのです。頓首。 六月三十日木戸一郎 井原退蔵様 拝復。 君の手紙は下劣でした。お答えするのも、ばからしい位です。けれども、もう一度だけ御返事を差し上げます。君の作品を、忘れる・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・後略のまま頓首。大事にしたまえ。萱野君、旅行から帰って来た由。早川俊二。津島君。」 月日。「返事よこしてはいけないと言われて返事を書く。一、長篇のこと。云われるまでもなく早まった気がして居る。屑物屋へはらうつもりで承知してしまっ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・茶会御出席に依り御心魂の新粧をも期し得べく、決してむだの事には無之、まずは欣然御応諾当然と心得申者に御座候。頓首。 ことしの夏、私は、このようなお手紙を、れいの黄村先生から、いただいたのである。黄村先生とは、どんな御人物であるか、それに・・・ 太宰治 「不審庵」
出典:青空文庫