・・・が、体の弱いツルゲーネフはすっかり打撃をうけ、しかも居住制限によってその後何年か自分の領地スパツコイエに釘づけにされるという不法の拘束をうけたのであった。 やっと自由を恢復してから、ツルゲーネフはドイツやフランスへ遊学した。そして、再び・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・、かかり人までこの宴にもれず、仮面もかぶらずにひかえて居る、それからは年の順、役の順に長年忠義劣りない家の子、家臣の一番上坐に、殿のみどり子の時からつかえて今に尚、この頃めずらかな業物を腰にうちこんで領地の見まわり、年貢のとりたてと心をくば・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ お徳をあがめるものは日増にふえて御領地は日ましにひろがる法王様の御声がかりなら死ぬるのは欠伸するより御安い御用と思うものが沢山になると陛下が、お前を法王に任ずる と仰せらるるのがお気に入らんでの。第一の女 お気に入・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・が、それはゴーチェが異国情緒を求めてスペインへ行ったのとはちがい、サルジニアに在る銀鉱で儲けようと思いついたからであったし、南露には後に結婚した彼の愛人ハンスカ夫人が三千人もの農奴のついたそこの領地へ行っていたからである。 バルザックは・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・この重大な時期に、マリアがロシアに生活せず、パリやニイスやイタリーを親切ではあるが旧時代の世界に住んでいる女親たちにとりかこまれて、領地の農民たちからしぼりとった金を使いながら歩きまわっていなければならなかったことは、マリアの知らない生涯の・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・政治の実権――主権を武家に確保するために、公家と武器と領地と領地の農民を背景とした僧侶の反抗の口実を防ぐために、天皇一族に対する給与ということが考えられていたのであった。 秀吉といえば、桃山時代という独特な時期を文化史の上につくり出した・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
従四位下左近衛少将兼越中守細川忠利は、寛永十八年辛巳の春、よそよりは早く咲く領地肥後国の花を見すてて、五十四万石の大名の晴れ晴れしい行列に前後を囲ませ、南より北へ歩みを運ぶ春とともに、江戸を志して参勤の途に上ろうとしている・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・御臨終の砌、嫡子六丸殿御幼少なれば、大国の領主たらんこと覚束なく思召され、領地御返上なされたき由、上様へ申上げられ候処、泰勝院殿以来の忠勤を思召され、七歳の六丸殿へ本領安堵仰附けられ候。 某は当時退隠相願い、隈本を引払い、当地へ罷越候え・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫