・・・元来これは絵画の領域に属するもので、絵画の上ではあらゆる物象だの、影だのを色彩で以て平たい板の上に塗るので、時間的に事件を語っているものではない。併し、それが最近の色彩派になって来ると、絵画が動くようなところに進んでいると思う。 例えば・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・かゝる天才の画に至ってはまた物語りの領域にはいる程の魔力を有しています。それであるから、一概に、絵と文章といずれがまさるかなどといわれないが、文字の表現がいかに人の想像に訴えて、ほしいままに空間に形を描き、声なき声を発し、色なきに、紅紫絢爛・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・それはなお倫理的関心の領域にいるからだ。最も許しがたいのは倫理的なものに関心を持たぬアモラールである。それは人間としての素質の低卑の徴候であって、青年として最も忌むべき不健康性である。健康なる青年にあってはその性慾の目ざめと同時に、その倫理・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 読書とは単なる知性の領域にある事柄ではない。それは情意と、実践との世界に関連しているのである。特に東洋においては、それはむしろ実践のためにあるものなのであった。 しかしながら前にも述べた如く、良書とは自分の抱く生の問いにこたえ得る・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それは神さまにおまかせしなければならぬ領域で、自分にはわからない事だ。お元気ですか、と何気なく問われても、私はそれに対して正確に御返事しようと思って、そうして口ごもってしまうのだ。ええ、まあ、こんなものですが、でも、まあ、こんなものでしょう・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・それこそ、おくさんの空想の領域です。おくさんは、野中先生をずいぶん大事にしていらっしゃる。それがまた、おくさんの生き甲斐なのでしょう? ばかばかしい空想はやめましょう。おくさん、今夜は、どうかしていますね。現実の問題にかえりましょう。僕たち・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・驚いて見ていると、この暴君はまもなくこの哀れな俘虜を釈放して、そうしてあたかも何事も起こらなかったように悠々とその固有の雌鳥の一メートル以内の領域に泳ぎついて行った。善良なるその妻もまたあたかもこの世の中に何事も起こらなかったかのように平静・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・この種の案内者はその専門の領域が狭ければ狭いほど多いように見えるが、これは無理もない事である。自分の「お山」以外のものは皆つまらなく見えるからである。 一方で案内者のほうから言うと、その率いている被案内者からあまりに信頼されすぎて困る場・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ しかしなめらかな毛髪や顔や肉体の輪郭を基調とした線の音楽としてのほとんど唯一の形式は、やはり古い浮世絵の領域を踏み出す事は困難に思われる。後代の浮世絵の失敗の原因はこの領域を無理解に逸出した事にありはしないだろうか。 もしこの私の・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・そういう意味においてすべての種類の映画の制作はやはり広義における映画芸術の領域に属するものと思われるから、ここではそういう便宜上の種別を無視して概括的に考えることにする。 映画は芸術と科学との結婚によって生まれた麒麟児である。それで映画・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫