・・・その大門をくぐれば、武士も町人も同等な男となって、太夫の選択にうけみでなければならない廓のしきたりがつくられたのも、町人がせめても金の力で、人間平等の領域を保とうとしたことによった。大名生活を競って手のこんだ粉飾と礼儀と華美をかさねたその場・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・等によって大衆文学の領域に進み出し、テーマの常識性、合理性の日本らしく低められた水準、要素そのものによって成功をかち得て今日に到っている現実に雄弁に語りつくされていると思われるのである。 菊池寛は「義民甚兵衛」の生と死とを、あくまで人間・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・民族のさまざまな特質やその特質を更に個性のニュアンスで音楽にうちこめている作品の再現としての演奏が、純粋に音の領域から入ってその精髄にふれてゆくことも、いろいろと考えさせて感興ふかかった。 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・パリ時代にその国の歴史から革命の歴史とその発展の理論をわがものとし、先進的なイギリスの経済学を発展的に学びとり、同時に哲学の領域では、大学時代からの研究によってヘーゲルからぬけ出し、やがてフォイエルバッハからも育ち出て唯物弁証法に立つ史観と・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 勤労階級の生活感情を反映するプロレタリア絵画の領域で問題とされたのは、先ず第一に絵画の主題、題材の社会性であり、色彩はそれらのものに応じて自ら選択される必然性の範囲においてとりあげられていたように思われる。新しい理解で芸術におけるリア・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・をこしらえたのもこのミュンヘン修学時代であるし、自分の芸術的表現はスケッチや銅版画に最もよく発揮されることを自覚して、塗ること、即ち油絵具の美しく派手な効果を狙うことは、自分の本来の領域でないという確信を得たのも同じ時代のことである。 ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・そういう傾向の一番あらわれ易い文学の領域などではこの現象がまことに顕著です。直接生計の不安のない夫人たち、家事はほかのひとにまかせることのできるだけゆとりある社会的環境の女の人々がある意味で進出して来ています。これは、今日の文学そのものの問・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 芸術の領域で、プロレタリア作家たちが、そのスローガン「プロレタリアートの技術を高めろ!」という声に無関係であり得るということはないのだ。 同時に、一九二八年から九年にかけての、このロシア・プロレタリア作家連盟の標語、大衆の中へ! ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ただその狭い領域に立てこもることの危険を感ずるのである。 さて右のごとき問題を抱いて諸家の作品を遠くからながめる。川端竜子氏の『慈悲光礼讃』は、この問題に一つの解案を与えるものであるが、我々はこれを日本画の新しい生面として喜ぶことができ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあらゆる活動が、なお明らかな分化を経験せずして緊密に結合融和せる一つの文化を思い浮かべる。そこで・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫