・・・それは毎週一度ずつ開かれる詮衡委員会が新刊児童文学につけた成績表である。 ――赤いのが一番いい部です。紫、黒のになると他の図書館へは買いません。緑のは、私共自身にはっきりわからないのです。果して子供が面白がるか、理解するか、若しかすると・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
どこの国にでも、文化、文芸の業績に対する賞というものはあるらしい。その詮衡が世界的な規模で行われ、最もひろい意味で人類的な影響をもつ仕事に与えられるという点で、ノーベル賞が国際的な権威をみとめられていることは、誰でも知って・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・然し又他の一方には、其等の悠久な軛であるあらゆる「あるべきもの」の消極も存在して居ります。此の二方面の力の消長に、人は聰明でなければなりません。一面から申せば、彼女等の苦しむ事と、私共の苦しむ事とは同じでございます。そして総ての人間が苦痛と・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々の軛からの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍進を遂げた時代であった。 降って十八世紀の西欧に於ける人文主義も封建の封鎖に対して人間性の明智と合理とを主張した広義のヒュ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 明治四十年代の荷風のデカダニズムはさきにふれたように、正面から日本の歴史的軛に抗議することを断念した性格のものであったし、大正年代に現われた谷崎潤一郎などのネオ・ロマンティシズムの要素も、同時代に擡頭した武者小路実篤のヒューマニズムと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 封建の伝統をもたない国の女性であるパール・バックが中国の婦人のおどろくべき強靭な生活力を、主として、妻、母という極めて重い軛の担い手としての姿の裡に発見し、描き出した。春桃は、深い伝統の波の底にあって、しかも習俗の形に支配されきっては・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・無学な人間は牛と同じこった。軛をかけられるか、つぶしにされるんだ。それでいて御本人は尻尾を振るばっかりと来ていらあ」 スムールイの云う言葉は、ゴーリキイの感受性の鋭い心の中に落ちて、反響をおこし、その現実観察力と発育の肥料となった。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ロシアの大衆を圧していた限りない不幸、その軛がはずされたこと及びゴーリキイ自身物心づくとからそれによって心臓をひんむかれるような苦痛を感じて来た沼のような無智、野蛮、屈従が、今や追っぱらわれようとしていること。ゴーリキイは誠実な心を持つ一人・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・そして全人民の半数を占める日本の婦人も、過去の重い軛から解放されて、明るい希望のある社会建設のために、これまでかくされていた自分たちの力を発揮することの出来る時代になって来た。それにつけても、今日私達が残念に思うことは、わたしたちが勇気をも・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫