・・・ 溝口というひとはこれからも、この作品のような持味をその特色の一つとしてゆく製作者であろうが、彼のロマンチシズムは、現在ではまだ題材的な要素がつよい。技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのであ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ロシアの作曲家チャイコフスキーを題材とした「悲愴交響曲」という作品がある。二男は歴史家であるゴロ・マン。次女モニカはハンガリーの美術史家の妻。三男ミハエルはヴァイオリニスト。末娘のエリザベート・マンがピアニストで、イタリーの反ファシスト評論・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・この作品は、われわれの人生に災難という形であらわれる偶然の力につよく印象づけられたことがあって、それが題材にされた。それから数年後に書かれた「顔」も、またちがった意味で偶然が人生に与える影響ということについて深く動かされたためであった。南ド・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・国際的な題材のルポルタージュがふえているのであるが、そのどれもが、国際間の現実を正しく反映しようとしているのでないことは、誰しも気づいている。現在、最も歪められて扱われているのはソヴェト同盟に関するルポルタージュである。それは日本の内にひそ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・それらがほんとに思わずも溢れる川のように溢れてかかれた作品であり、ほんとに書かずにいられない題材と主題とによっているというまじりけなさの点で、これら二つの作品のかげには、人生の初秋において妻として甦った一人の女の豊かな秋のみのりへの生と文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・方の一例にまで書くのであるが、『春琴抄』という谷崎氏の作品を読むときでも、私も人々のいうごとく立派な作品だと一応は感心したものの、やはりどうしても成功に対して誤魔化しがあるように思えてならぬのである。題材の持ち得る一番困難なところが一つも書・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・…………… 笑われた子 これは夢を題材にした私の創作の中の一つである。ある子供の両親がその子を何に仕立てていってよいものかと毎夜相談をしている。そう云うある夜、子は夢を見た。野の中で大きな顔に笑われる夢である。翌朝眼が・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・歴史的題材を取り扱う画において、特にこの傾向は著しい。人物を描けば、我々の目前に生きている人ではなくて、豊太閤である。あるいは狗子仏性を問答する禅僧である。あるいは釈迦の誕生を見まもる女の群れである。風景を描けば、そこには千の与四郎がたたず・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・その中には寺社の縁起物語の類が多く、題材は日本の神話伝説、仏典の説話、民間説話など多方面で、その構想力も実に奔放自在である。それらは、そういう寺社を教養の中心としていた民衆の心情を、最も直接に反映したものとして取り扱ってよいであろう。民俗学・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・がしかしその作品の本来の美しさを感じないでも、なおそこに或る魅力を感ずる場合、例えば題材に対して興味を覚える場合には、公衆はその作品から或る影響をうける。マダム・ボヴァリーを読んで姦通を煽動されるとか、ロダンの「接吻」を見て肉欲を刺戟される・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫