・・・そして家々の窓口からは、髭の生えた猫の顔が、額縁の中の絵のようにして、大きく浮き出して現れていた。 戦慄から、私は殆んど息が止まり、正に昏倒するところであった。これは人間の住む世界でなくて、猫ばかり住んでる町ではないのか。一体どうしたと・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・彼が本国から齎した詩の泉は、永くフランスに滞在したことによって増されはしなかったが、それによって彼の芸術を硝子と額縁とに入れる術を学んだのである」と。 この観察は、ツルゲーネフの生涯とその文学活動を理解するために非常に深く鋭い示唆を含ん・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・そして出口の方へ行こうとして、ふと壁を見ると、今まで気が附かなかったが、あっさりした額縁に嵌めたものが今一つ懸けてあった。それに荊の輪飾がしてある。薄暗いので、念を入れて額縁の中を覗くと、肖像や画ではなくて、手紙か何かのような、書いた物であ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・それが明白に異なった様式をもって石垣と門とに対立したとき、石垣や門はいわば額縁の中に入れられた。すなわちそれらは fr sich になった。そこで石垣や門の持っている固有の様式がまた明白に己れ自身を見せ始めたのである。石垣や門の屋根などの持・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫