・・・点字に写し取った中から、あらゆる思想や、警句や、特徴や、挿話を書き抜き、分類し、整理した後に、さらにこの著者が読んだだろうと思われるあらゆる書物を読んだり読んでもらったりして、その中に見出される典拠や類型を拾い出すというのである。この盲人の・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・自分の最初の捜し方が拙であったことはたしかであるが、それにしても、本屋に並んでいる書物が「類型的」であり「非独創的」であり、「懸崖作りのつるばら」のようなものであるという例証にはなるかと思う。もう少し専門学術的な書物になると、特にドイツなど・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 地震の場合は必ずしもこれと類型的ではないが、問題が統計的である事だけは共通である。のみならず麻糸の場合よりはすべての事柄が更に複雑である事は云うまでもない。 由来物理学者はデターミニストであった。従ってすべての現象を決定的に予報し・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・しかしそういういろいろな生物学的方面における形態的類型にも注意を怠らないようにしたいものだと思う。案外、そういう方面から有益な手掛かりを得られないとも限らないからである。 樹木の年輪や、魚類の耳石の年輪や、また貝がらの輪状構造などは一見・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ この不可能事を化して可能にする魔術師の杖は何かと調べてみると、それは、言わば、具体的事実の抽象一般化、個別的現象の類型化とでも名づけるべき方法であると思われる。 殺人事件というものが古来一つもなかったらどうにもならない話であるが、・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・清長型、国貞型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江型、夏川型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌の類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた、そうしてまだ粉飾や媚態によって自然を隠蔽しない生地の相貌の収集され展観されている・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし、分析的な科学とは類型を異にした学問である。 たとえば、昔の日本人が集落を作り架構を施すにはまず地を相することを知っていた。西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、従って伝来の相地の学・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・たとえばロシア映画のあるものは前者の類型であり、アメリカ映画のあるものは後者の仲間であると言ってもそうはなはだしい牽強付会ではあるまいと思われる。 八 連句の映画化ということについては、自分はこれまでに幾度もいろいろ・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・これは最も簡単な類型的の一例とさるる弦の振動の場合ならばその節点の数を決定するものであり、要するに連続的なものの中でただ特定なものだけの実在を決定するものである。ところでたとえば鈴木清太郎博士の実験で、円板の中心を衝撃する際に生ずる輻射形の・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・しかしこの類型を神経の作用にまでも持って行こうとすると非常な困難がある。かりにあるものの変位がプラスであれば緊張、マイナスであれば弛緩の状態を表わすとしたところで、その「もの」がなんだかわからなければその質量に相当するものも、弾力に相当する・・・ 寺田寅彦 「笑い」
出典:青空文庫