・・・ 当時より更に数年前にさかのぼってプロレタリア文学時代を顧みると、この時代には、批判の精神というものはこの文学における独自な性格である自己の存在意義への歴史的な確信と主動性とともに極めて溌剌と動いた。けれども、文芸理論としての若さから、・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 昔の外国のロマンチシズムの時代を顧みるとなかなか興味のあることは、抽象名詞が雄飛した割合に、作品で後にのこるものがないことである。明日の日本の文学が雄大なものであるためには、今日の生活の現実に徹しなければならず赫々たるものに対してはま・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ ここで私共は、一つの驚きを以て顧みる。日本の憲法というものは、何と外国の憲法と性質の異ったものであるかということである。憲法というものは、何処の国でも、支配者の大権と共に人民の権利をも規定したものであり、民主主義の発達した国であればあ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・永遠に渇している目には、またこの箸を顧みる程の余裕がない。 娘は驚きの目をいつまで男の顔に注いでいても、食べろとは云って貰われない。もう好い頃だと思って箸を出すと、その度毎に「そりゃあ煮えていねえ」を繰り返される。 驚の目には怨も怒・・・ 森鴎外 「牛鍋」
・・・そのときは親は子を顧みることが出来ず、子も親を顧みることが出来ない。それは海辺の難所である。また山を越えると、踏まえた石が一つ揺げば、千尋の谷底に落ちるような、あぶない岨道もある。西国へ往くまでには、どれほどの難所があるか知れない。それとは・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫