・・・この鵜飼三次というは学問の造詣も深く鑑識にも長じ、蓮杖などよりも率先して写真術を学んだほどの奇才で、一と頃町田久成の古物顧問となっていた。この拗者の江戸の通人が耳の垢取り道具を揃えて元禄の昔に立返って耳の垢取り商売を初めようというと、同じ拗・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上に必要な顧問となるために同局の行政的事務を免除され、もっぱら戦争の方の問題に骨を折る事になったとある。これはむしろあまり遅きに過ぎると思われるが、いったい英国の流儀としては怪しむ・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・研究に忙しかるべき学者を、通俗講演や、科学の宣伝や、その他何々会議や何々委員や顧問に無暗に引っぱり出すのもそうである。 そんなことで科学は奨励されるものではない。唯一の奨励法は、日本にアインシュタインや、ボーアのような学者を輩出させるこ・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・せめて元田宮中顧問官でも生きていたらばと思う。元田は真に陛下を敬愛し、君を堯舜に致すを畢生の精神としていた。せめて伊藤さんでも生きていたら。――否、もし皇太子殿下が皇后陛下の御実子であったなら、陛下は御考があったかも知れぬ。皇后陛下は実に聡・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・それが出来なくなればわたくしはつまり用のない人になるわけなので、折を見て身を引こうと思っていると、丁度よい事には森先生が大学文科の顧問をいつよされるともなくやめられる。上田先生もまた同じように、次第に三田から遠ざかっておられたので、わたくし・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・第二にはジネストの奥さんの手紙が表面には法律上と処世上との顧問を自分に託するようであって、その背後に別に何物かが潜んでいるように感じたからである。無論尋常の密会を求める色文では無い。しかしマドレエヌは現在の煩悶を遁れて、過去の記念の甘みが味・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・この度はシカゴ畜産組合の顧問として本大祭に御出席を得只今より我々の主張の不備の点を御指摘下さる次第であります。一寸紹介申しあげます。」とこう云うのでありました。私たちは寛大に拍手しました。 マットン博士はしずかにフラスコから水を呑み肩を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・イエニーの父は、トリエルの枢密顧問官であった。転任して来たときからマルクス家と親交があった。この枢密顧問官は、役人くさくない聰明な人がらで、ホーマーやシェクスピアを愛読していた。当時の狭い社会で枢密顧問官といえば、貴族的な上流人と考えられて・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・大変恐縮の様子で、自分は面白いと思って持って行ったが、編輯顧問をしている人々皆で読んでみたらば、「思想性」がないから、自分の方の雑誌には不適当だという強硬な意見がつよくて、失礼であるが御返しする。尤も考えてみれば刑務所への手紙は幾重もの検閲・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・婦人の政治的、社会的啓蒙、民主化活動も同時にとりあげられて、CIEの個人的顧問であった婦人たちを中心として佐多稲子、壺井栄、山本安英その他の婦人芸術家をも包括する婦人民主クラブが組織された。その下準備のために多くの時間がさかれた。三月、・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫