・・・小さなバスケットや信玄袋の中から取り出した残りものの塩せんべいやサンドウイッチを片付けていた生徒たちの一人が、そういうものの包み紙を細かく引き裂いては窓から飛ばせ始めると、風下の窓から手を出してそれを取ろうとするものが幾人も出て来た。窓ぎわ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ 彼は煽風機の風下に腰を下した。空気と座席とが、そこには十分にあった。 焙られるような苦熱からは解放されたが、見当のつかない小僧は、彼に大きな衝撃を与えた。それでいて、その小僧っ子の見てい、感じてい、思ってい、言う言葉が、 ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・林を伐るときはね、よく一年中の強い風向を考えてその風下の方からだんだん伐って行くんだよ。林の外側の木は強いけれども中の方の木はせいばかり高くて弱いからよくそんなことも気をつけなけぁいけないんだ。だからまず僕たちのこと悪く云う前によく自分の方・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・と言いましたがなにぶん風下でしたから本線のシグナルまで聞こえませんでした。「許してくださるんですか。本当を言ったら、僕なんかあなたに怒られたら生きているかいもないんですからね」「あらあら、そんなこと」軽便鉄道の木でつくったシグナレス・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・それが風下でしたから、手にとるように聞えました。それがいかにも本式なのです。私たちは、はじめはこれはよほど費用をかけて大陸から頼んで来たんだなと思いましたが、あとで聞きましたら、あの有名なスナイダーが私たちの仲間だったんです。スナイダーは、・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・浜町も蠣殻町も風下で、火の手は三つに分かれて焼けて来るのを見て、神戸の内は人出も多いからと云って、九郎右衛門は蠣殻町へ飛んで帰った。 山本の内では九郎右衛門が指図をして、荷物は残らず出させたが、申の下刻には中邸一面が火になって、山本も焼・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫